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スペース効率に優れたボクシーでカドのないプリズムカット
「SS」でパワーウォーズに応じるも、短い天下
スペース効率に優れたボクシーでカドのないプリズムカット
当時の軽自動車は、航空機メーカー(中島飛行機)を前身に持つスバルや、工業デザイナーの「匠」小杉二郎のデザインを特徴とするマツダなどの曲線的な美しいデザインと、スズキや三菱のように保守的にも見える四角いデザインのクルマが混在していた時代です。
初代「フェロー」はどちらかといえば後者の「四角い」ほうで、いかにも保守的なダイハツらしく、スペース効率を最大限考慮した四角いキャビンに短い独立トランクを持つ2ドアセミノッチバックセダンに、やはり四角いバンとピックアップトラックというラインナップ。
しかし、小型乗用車の「コンパーノ」でイタリアンデザインを取り入れていただけあって一工夫あり、それが単にヴォクシー(箱型)なだけでなく、徹底的に角を落とした宝石のような、「プリズムカット」と呼ばれるデザインでした。
当時、似たようなデザインテイストに「クリスプカット」の日産 シルビア(初代・1965年)があったものの、低価格の軽乗用車で同じように継ぎ目の少ないデザインにするには相当レベルの高いプレス技術が必要だったはずです。
しかし、国内初と言われる角型ヘッドライトともども「さりげなく」作って派手さのないのが当時のダイハツらしいところで、斬新な割には大ヒットというほどの人気ではなかったと言われています。
「SS」でパワーウォーズに応じるも、短い天下
初代フェローのパワートレーンはエンジン縦置きのFRレイアウト、身もフタもないことを言えば軽商用車のハイゼット系から転用で、エンジンも同年にマイナーチェンジするハイゼットと同じ水冷直列2気筒2サイクルエンジン「ZM」の23馬力仕様です。
これはこれで、ダイハツらしく手堅く高性能な実用エンジンでしたし、四輪独立懸架サスペンションと相まって存外に良い走りの通好みなクルマでしたが、発売7ヶ月後に空冷4サイクル並列2気筒SOHC31馬力のホンダ「N360」が出てしまうと、「もうあきまへん!」。
ホンダお得意の2輪用をベースにした高回転型エンジンをビーン!ビーン!とぶん回し、問答無用の動力性能で大ヒットするN360に戦々恐々としたのはどこのメーカーも一緒で、中でもダイハツのような後発メーカーは、足場も作らぬうちの話ですから大変です。
しかしホンダが2輪のエンジンで鳴らしたメーカーなら、ダイハツだって戦前からの発動機屋(エンジン屋)として鳴らした名門ですから、他メーカーに先駆け1968年5月にはN360対抗の高性能版「フェローSS」を発売!
N360の31馬力に対し、圧縮比アップ(9.0→10.6)、ツインキャブ化、さらに吸排気まで手が入るダイハツ純正チューンのZMエンジンは32馬力を誇り、フェローSSは「軽自動車最強」のはずでした。