熱燗にしてもお酒の物性が変化する

なぜお酒は温めても美味しく感じるのか?

謎を解明すべく研究者たちは、お酒を温めたときの変化についても調べました。

すると40℃付近でアルコール濃度38%付近にあった分子配列の急激な変化ポイントが消滅しており、アルコール濃度35~65%まで分子配列がほぼ安定していることが示されました。

この結果は、ぬるま湯付近のお酒は、よりアルコール濃度が高いお酒とアルコール感が似ていることを示しています。

実際、プロのテイスターであっても40℃に熱された白酒の場合、アルコール濃度39%とアルコール濃度52%の味を区別することができませんでした。

熱燗にしてもお酒の物性が変化する
熱燗にしてもお酒の物性が変化する / Credit:川勝康弘,canva

一方で、温めたお酒は常温に比べてアルコール感が強いと評価されました。

研究者たちは、日本酒や焼酎、白酒、黄ワインをぬるま湯で飲む習慣があるのは、低アルコール濃度でも、高アルコール濃度のお酒と同じアルコール感を味わえるからだと述べています。

また原理的には、アルコール濃度が低いお酒でも、温めることで常温に比べてアルコール感の増加が見込めることも示されました。

これは常温のビールと40℃付近のビールでは、40℃付近のビールのほうがアルコール感が強い可能性を示しています。

ただ40℃付近のビールがあまり人気がないことから、ビールなどではさまざまな効果を相殺し合った結果、冷やすほうに軍配があがったと考えられます。

あるいは試す人がいないだけで、ぬるま湯ほどの温度のビールには、まだわたしたちが知らない隠れた魅力があるのかもしれません。

お酒の美味しさにおいて、アルコール感は必ずしも全てを決める要因ではありません。

特に温めたお酒では揮発成分が増加し風味が良くなるなど、アルコール感以外の効果もあるからです。

しかし温度を変えるだけで、プロのテスターでもアルコール濃度がわからなくなり、灼熱感などのアルコール感が変化してしまうというのは、重要な点だと言えます。

今回の研究成果を活用すれば、より少ないアルコール濃度であっても、強いアルコール感を感じられるお酒を造ることができるでしょう。

具体的には、飲む温度の推奨値が定められたお酒や、分子構造をより高アルコール濃度に多い鎖型を増やすようにする成分が入ったお酒を開発できれば、アルコールをたくさん摂取したと錯覚させることが可能となるはずです。

実際にアルコール濃度が高いお酒は、価格も高くなりまた常飲するには健康にもよくありませんが、強いお酒を飲んだ感覚が手軽に味わえるなら、製造者にも消費者にも優しいお酒になるかもしれません。

参考文献

Why you can taste more ethanol in a cold pint of beer or warm glass of baijiu

元論文

Ethanol-water clusters determine the critical concentration of alcoholic beverages

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。