アルコール感はアルコール濃度と比例しない

先にも述べましたが、お酒の分子配列の変化は連続的なものではなく、ある特定のアルコール濃度になると一気に進行し、そこからは再び特定の濃度に達するまではあまり変化はみられません。

白酒の場合、この急激な変化ポイントが51%と52%の間に存在します。

温度がかわるとテスターもアルコール濃度がわからなくなります
温度がかわるとテスターもアルコール濃度がわからなくなります / Credit:Xiaotao Yang et al . Matter (2024)

研究者たちがテスターたちにこのポイントの前後の濃度の白酒を試飲してもらったところ、プロのテスターもアマチュアのテスターも、他の濃度差(49%と50%など)ではそれほどアルコール感に違いを感じないと答えたましたが、51%の白酒と52%では、アルコール濃度も大きく違っていると回答しました。

アルコール感というのは、飲む前の香りや飲んだ後に鼻を抜ける香りから感じるアルコール独特の風味のことです。

このアルコール感が、たった1%の濃度差で全く異なって感じたのです。

この結果は、お酒内部のアルコールと水の分子配列が急激に変化したことが、テスターたちの味の感じ方やアルコール度数の判断に急激な変化を起こしていたことを示しています。

研究者たちは、この51%と52%の境目をはじめとした各種の急激な変化ポイントが、白酒のカテゴリの違いをうみだす主因だと述べました。

というのも、お酒では安い水をできるだけ多くする一方で、製造にコストがかかるアルコールは少なくするほうが儲かります。

そして白酒にはアルコール度数で幾つかの分類があることが知られています。

研究では38~42%の白酒の味は51%の白酒の味と大差ないことが示されています。

ならば、比較的低アルコール濃度の白酒を製造するのに、わざわざコストのかかるアルコールを次の変化ポイント付近(50%近く)まで高める必要性は薄くなります。

また52%の白酒のアルコール感は60%まで高めた白酒のアルコール感とそこまでの差は産みません。

ならばアルコール量をギリギリまで低くしたものを中レベルのアルコール濃度の白酒として販売したほうが利益を生み出してくれます。

研究者たちが調べたところ、伝統的な白酒のアルコール度数のカテゴリは低レベルで38~42%、中レベルでは52~53%、高レベルでは68~75%となっていました。

どのレベルでもあと1~2%アルコール濃度が低くなると、より低位のアルコールレベルの酒だと判断されてしまう数値です。

ウイスキーやブランデー、日本酒などのアルコール濃度が変化ポイントの前後にあるのも、同様の原理からだと考えられます。

西部劇などでは、薄めた酒を出したバーテンが荒くれ物のガンマンに胸倉をつかまれたり、時には撃ち殺されてしまうシーンがみられます。もしバーテンが今回の研究結果を知って上手く濃度調節ができていたら、そのようなシーンは回避できたでしょう。
西部劇などでは、薄めた酒を出したバーテンが荒くれ物のガンマンに胸倉をつかまれたり、時には撃ち殺されてしまうシーンがみられます。もしバーテンが今回の研究結果を知って上手く濃度調節ができていたら、そのようなシーンは回避できたでしょう。 / Credit:canva

伝統的な白酒の分類ができた当時は、現代のような高度な分析装置はありませんでした。

顧客のより強いアルコール感を求める欲求と酒造業者の利益の均衡が、分子配列変化の急激な変化が起こるポイントに伝統的な酒の濃度を設定したと考えるのは、極めて興味深いと言えます。

しかしお酒内部の分子配列を変える要因はアルコール濃度だけではありません。

次はいよいよ冷たいビールが美味しい理由を解き明かします。