ティラノサウルスはどれくらい賢かったのか? これは長く続く恐竜の論争の1つです。

2023年1月、古生物学会に大きな波紋を広げる一つの研究が発表されました。

それが「ティラノサウルスは現代のヒヒと同等の高い知能を持っていた」というものです。

このことから研究はティラノサウルスが「カラスのように道具を使えた可能性もある」と推測していました。

しかし、ティラノサウルスがそこまで高い知能を持つというのは多くの古生物学者にとって、あまりにも大胆かつ刺激的すぎる主張でした。

そこで今回、カナダ・アルバータ大学(University of Alberta)を中心とする国際研究チームは、この主張を再検証し「ティラノサウルスは現代のワニくらいの知能しかなかった」と反論する研究を発表したのです。

果たして、どちらが真実に近いのでしょうか?

研究の詳細は2024年4月26日付で科学雑誌『The Anatomical Record』に掲載されています。

「Tレックスはヒヒ並みに賢い」は正しい?間違い?

「ティラノサウルスはヒヒと同等の知能を持っている」

この主張を発表したのは米ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)の神経解剖学者であるスザーナ・エルクラーノ=アウゼル(Suzana Herculano-Houzel)氏です。

アウゼル氏は当時の研究で、ティラノサウルス(以下、Tレックス)の知能を測定するため、大脳皮質のニューロン密度に注目しました(Journal of Comparative Neurology, 2023)。

大脳皮質は大脳の表面に広がるシワシワの部分で、あらゆる知的タスクに関わる脳領域です。

同氏は脳全体の大小ではなく、大脳皮質にどれだけニューロン(神経細胞)が密に詰まっているかで、その動物の賢さが推測できると考えました。

実際に、現代の鳥類は脳そのものは小さいものの、ニューロンが密に詰まっていることで驚くほど高い知能を発揮しています。

大脳皮質のニューロン数からTレックスの賢さを推定する試み
大脳皮質のニューロン数からTレックスの賢さを推定する試み / Credit: canva

そしてアウゼル氏は、Tレックスの脳の構造が現代の鳥類の脳とほぼ同じ規則に従っていると推定し、そこからニューロン密度を算出。

その結果、Tレックスの脳の重さは400グラム強しかないにも関わらず、ニューロン数は33億個と推定され、現代のヒヒに匹敵するとの答えを出したのです。

(ちなみに、ヒトの大脳皮質のニューロン数は約160億、チンパンジーは約80億、ニホンザルは約50億です)

詳しい内容が知りたい方は、こちらの記事をご参照ください。

Tレックスの知能は「霊長類」に匹敵していた!? 道具を使えた可能性も!

このことからアウゼル氏は、Tレックスが現代のヒヒ並みの知能を持ち、道具を使用したり、知識を仲間に伝達することもできたのではないかと考えます。

同氏の仮説は非常に大胆で刺激的ではあったものの、古生物学界では懐疑的な見方が多かったようです。

そこでアルバータ大学の生物科学者であるクリスチャン・グティエレス=イバニェス(Cristian Gutierrez-Ibanez)氏は、古生物学者、神経解剖学者、認知心理学者など、強力な布陣をそろえた国際研究チームと共に、アウゼル氏の説に反論する研究を発表することにしたのです。

イバニェス氏(右)と同僚のダグラス・ワイリー氏(左)
イバニェス氏(右)と同僚のダグラス・ワイリー氏(左) / Credit: University of Alberta – T. rex: about as smart as your average crocodile(2024)

では、その反論内容を次に見てみましょう。