2016年に韓国で出版され大ヒットとなり、その後映画化もされた「82年生まれ、キム・ジヨン」という小説があった。日本でも翻訳版が出版されたので知っている人もいるかもしれないが、韓国の女性が直面する「生きづらさ」 がわかりやすく描かれているので、興味があれば一度見て欲しい。

男性も熾烈な受験戦争や雇用の不安定、住宅価格の高騰などが結婚のハードルになっているという。

その中でLGユープラスは独身者を差別せず、既婚者と同じ福利厚生制度の恩恵を提供する必要があると判断。 結婚に対する考え方や選択肢が多様化していることから、従業員の価値観を尊重すべきという結論に至った。韓国では同社だけでなく、百貨店など他の大手企業にも非婚支援金制度が広がりつつあるようだ。

韓国はすでに未婚率が上昇

非婚宣言をする人の増加を裏付けるように、韓国では未婚率が上昇している。2020年における未婚率(総人口に占める未婚者の割合)は男性で36%、女性で26.3%にも達した。さらに、男性は学歴が低いほど、女性は学歴が高いほど未婚率が高いというデータも示されている。

※韓国銀行「未婚人口増加と労働供給の長期傾向」報告書より

出生率は世界最低基準 国家的な問題にも

関連する問題として、韓国の出生率の低さにも触れておきたい。

2023年の韓国の出生率(※)は0.72と過去最低を更新した。

日本の2022年における出生率が1.26であったことを考えると、これがいかに低い数字かがわかるはずだ。

韓国においてここまで少子化が進んだことには、以下のようなさまざまな原因が考えられる。

● 人口と就業者の過半数がソウル市・京畿道・仁川市のいわゆる首都圏に集中している
● 育児政策が子育て世代に偏重している
● 男女差別が根強い
● 子育ての経済的負担が根強い

若者が自由を主張し、それを後押しすること自体は問題ないが、その裏で少子化が加速しかねない点にも留意すべきだろう。

※合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)
※韓国統計庁「2023年人口動向調査」2024年2月28日発表

少子化対策を進める日本とは真逆の方針

結論からいうと、日本に非婚支援金制度が導入される確率は現段階では低いと思われる。

韓国と同様に、日本でも生涯未婚率は年々増加している。 日本の2020年の生涯未婚率(50歳時未婚率)は男性28.3%、女性17.8%。5年前の2015年と比べて男性は3.5ポイント、女性は2.9ポイント上昇している。

※内閣府「直近の国勢調査 」2022年6月発表

2023年の出生数は75万8,631人と過去最少の水準に落ち込んだ。「異次元の少子化対策」を唱えて出生数増加に邁進する政府の動きを見る限り、少子化に直結する「非婚化」を政府が支援するとは考えにくい。

企業の立場や社会の風潮を鑑みても、非婚化支援は現在の日本では馴染みにくい施策といえるだろう。

しかしもし、この制度が日本に導入されたらそれを喜べるのか喜べないのかは、個々人の仕事や育った家庭環境、今まさに進行中の恋愛事情によって変わる。

「恋人がこの制度により、結婚に対し後ろ向きになってしまったら…」と、そんな悩みが出てくるかもしれない。

制度の良し悪しは、1人1人にとって、変わるのだ。

文・荒井美亜(金融ライター/ファイナンシャル・プランナー)
立教大学大学院経済学研究科を修了(会計学修士)。税理士事務所、一般企業等の経理を経験して現在は金融マネー系ライターとして活動中。日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。