湘南を救った畑と福田
劣勢に陥った湘南は前半16分にハイプレスを仕掛けたものの、鳥栖MF河原創(ボランチ)を誰が捕捉するのかがはっきりせず。ゆえに同選手経由のパスワークから速攻を浴び、FWマルセロ・ヒアンに危険なシュートを放たれている。相手のパス回しをサイドへ追いやろうとする際にボランチへのマークが甘く、ゆえにここへパスを通されてしまう。これは湘南が今季序盤から解決できていない問題のひとつであり、この悪癖が今節も顔をのぞかせてしまった。
2失点目を喫してもおかしくない展開だったが、湘南DF畑とFW福田翔生がこの悪い流れを断ち切る。前半25分、畑が敵陣左サイドでのスライディングでボールを回収すると、これが味方MF阿部浩之に渡る。阿部のクロスに福田がヘディングで合わせ、同点ゴールを挙げた。
畑の献身的なスライディングと、鳥栖DF山﨑の死角(背後)にいち早くポジションをとり、阿部のクロスを呼び込んだ福田のプレーは秀逸のひと言。闘う姿勢を体現した前者と、リーグ戦3試合連続となるゴールを挙げた後者が湘南を救った。
新たな攻撃パターンを手に
ウイングバックやサイドバックが自陣後方タッチライン際でボールを受けることで、相手サイドハーフ(ウイングFW)のプレスをもろに浴びるという問題点を昨年より抱えていた湘南。ウイングバックやサイドバックがここでボールを受けた場合、自身の傍にはタッチラインがあるため、左右どちらかのパスコースが必然的に消える。ゆえに相手にその後のパスコースを読まれやすく、ボールを失うリスクも上がるのだが、湘南は昨年と今季序盤でこの問題をなかなか解決できず。これにより2023シーズンのJ1リーグ第7節から15試合、及び今季第3節から9試合勝ちなしと大不振に陥った。
今回の鳥栖戦でも、左ウイングバックの畑が自陣後方タッチライン際でボールを受ける場面がしばしば。相手のプレスを浴びてはパスコース探しに苦労しているように見えたが、この状況下で湘南は新たな攻撃パターンを手にしている。
湘南に光明が差し込んだのは、1-1の同点で迎えた後半1分の場面だ。ここでは自陣後方でボールを受けた同クラブDF大野和成(センターバック)が、低い位置に立っていた畑へパスを出すと見せかけ、その前方のMF平岡へ浮き球を送る。これをコントロールした平岡からボールを引き取ったのは、タッチライン際から内側へ走った畑。その後畑からMF池田にパスが繋がると、池田からボールを受け取った阿部がペナルティアーク後方から右足でシュートを放つ。このミドルシュートがゴールマウスに吸い込まれ、湘南が試合をひっくり返した。
この場面で特筆すべきは、湘南が自陣後方へ降りたウイングバックの畑を囮(おとり)とし、鳥栖のハイプレスを掻い潜ったこと。このウイングバックの動きを今後も巧みに使えば、先述した湘南の問題は解決に向かうかもしれない。これこそ同クラブが今後に活かすべき成功体験であり、逆に言えば自陣後方タッチライン際に立つウイングバック(サイドバック)に安易にパスを出すべきではないだろう。