ピーク時には国内で130店を展開していた「東京チカラめし」。現在は大阪日本橋店の1店舗のみを営業していたが、5月7日、東京都内で新規店舗「東京チカラめし食堂」が“再オープン”したことが話題を呼んでいる。背景には何があるのか、そして再び出店攻勢をかけるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 東京チカラめしの1号店が東京・池袋にオープンしたのは2011年6月。居酒屋「東方見聞録」「月の雫」「金の蔵Jr.」などで知られていた三光マーケティングフーズ(現SANKO MARKETING FOODS/以下、サンコー)が運営し、一般的な「煮る牛丼」ではなく「焼く牛丼」を武器に3大チェーンが牙城を占める牛丼業界に殴り込みをかけ、一時は500店舗の出店を計画していたが、売上が急減。13年頃からは閉店が相次ぎ、関東圏で唯一営業していた新鎌ヶ谷店(千葉)が昨年11月に閉店。残るは大阪日本橋店のみとなっていたが、昨年内に10年ぶりの新規出店を計画しているという情報が伝わり一部で注目されていた。

 サンコーといえば過去に270円均一の居酒屋チェーン「金の蔵」で格安居酒屋ブームを牽引したことでも知られるが、一時期は約100店舗まで拡大したものの現在は1店舗のみの営業。東京チカラめしと金の蔵の縮小を受けサンコーの業績は悪化していき、飲食事業は継続しつつも生き残り策として清掃・除菌事業や官公庁・温浴施設などの飲食店・食堂の運営受託事業などにも手を広げていた。

「大量出店していた当時の東京チカラめしは、料理のクオリティが店舗によってバラバラで、何より店内の衛生面が酷かった。明らかに大量出店に人材育成をはじめとするあらゆる点が追い付いていなかった。すき家、吉野家、松屋は1000店規模で展開しているが、どの店舗に行っても料理の質が均一で店内がクリーンに保たれており、運営会社には高いオペレーションのノウハウが求められる。加えて大手牛丼チェーンも“焼き牛丼”メニューを投下したことで、東京チカラめしのオリジナリティーが失われ、一気に客離れが進んだ。

 また、金の蔵については格安居酒屋チェーンが急増して競争が激しくなり、2010年代後半に入るとサラリーマンや学生の間で居酒屋に行くという習慣が薄れ、和民をはじめとする大手居酒屋チェーンも一斉に他業態への転換を余儀なくされる状況に陥った。そこにコロナが重なったことで、都心部に積極的に出店していた金の蔵も行き詰まった」(外食チェーン関係者)

水産業に活路を見いだす

 そんなサンコーが今、起死回生をかけて取り組んでいるのが水産業だ。2020年に静岡県の沼津我入道漁業協同組合の組合員となり、自社で漁船を保有し、社員自らが漁に出るなどして生産者の領域に進出。浜松市中央卸売市場の仲卸や豊洲市場で7社しかない大卸・綜合食品の株式を取得してグループ傘下に収めることで、生産・仕入れ・加工・仲卸・飲食店の機能を一気通貫で自社グループに備え、400社以上の仲卸、200社以上の売買参加者、さらには外食・小売事業者との販路を獲得した。このほか「SANKO水産DX」と銘打ち、プラットフォームをインターネット上に構築して漁業・水産事業、飲食事業、Eコマースの事業がリンクするシステムの構築にも取り組んでいる。

 サンコーが自社で調達した鮮魚は自社が運営する飲食店でも取り扱っている。沼津で獲れた新鮮な鮮魚を味わえるのをウリとして、大衆酒場「アカマル屋」「アカマル屋鮮魚店」「宮益坂下 酒場」、寿司居酒屋「まるがまる」、寿司店「船上すし みこう」など徐々に店舗を増やしつつある。

「水産業に土地勘のない一企業がいきなり仲卸や大卸を買収しようとしても、相手から抵抗にあうので実現は難しい。漁協に加入して自社で船まで持って漁をするという実績と信頼があったからこそ、『サンコーさんならいいよ』ということで仲卸・大卸側の理解を得られた。新規参入が多くはない水産業の上流に入り込むというのは、なかなか目の付けどころがよい。卸が持つ多数の取引先への販路を獲得することで自社運営の飲食店以外からも売上を上げることができるし、飲食店側も自社の流通経路から安く仕入れてリーズナブルな価格で料理を提供できるのもメリットだろう。

 サンコーの長澤成博社長が各種インタビューで言っているように、かつての都心出店重視の方針を転換して“山手線の外”、つまり住宅が多くオフィスワーカー需要に左右されないエリアをメインに出店していくとしており、経営戦略的に良い方向へ転がりつつあるようにみえる。出店ペースも東京チカラめしや金の蔵のように無理に速いということはなく、慎重かつ着実に出店を重ねている」(外食チェーン関係者)