最大で約1600キロ先まで届く⁈
ヒゲクジラ類の代表格であり、その中で最も大きな声を出すことで知られるのが「シロナガスクジラ」です。
シロナガスクジラはクジラ界だけでなく、地球上で最も大きな生物でもあります。
彼らは一般的に大きな群れをつくらず、単独で生活することが多いため、他の仲間やパートナーを見つけるときには発声を使ってコミュニケーションを取らなければなりません。
これまでの研究によると、シロナガスクジラの声の大きさは188デシベルに達することがわかっています。
騒音の目安でいうと、私たちが日常生活でうるさいと感じるブルドーザーやカラオケの室内の音が90デシベルで、ずっと聞き続けると聴覚に異常をきたすジェットエンジンの音が120デシベルです。
これを踏まえると、シロナガスクジラの声がいかに大きいかがわかるでしょう。
そのおかげでシロナガスクジラの声は条件さえ整えば、約1600キロ先の仲間にも自分の声を届けることができるそうです(NOAA fisheries)。
東京から上海までが約1700キロですから、シロナガスクジラが東京で叫ぶと、上海近くの仲間にもその声が聞こえるわけです。
ただし研究者らは、水中と空気中で音の響き方が異なる上、クジラの発する声は私たちの聴覚にはあまり聞こえない非常な低音域なので、近くにいても耳をつんざくほどうるさくはないだろうと述べています。
騒音でクジラの声が聞こえない?
しかしヒゲクジラたちが独自の発声方法を進化させたにも関わらず、彼らは重大な危機に直面しています。
それが人間が発する騒音の問題です。
私たち人間は今、豊かな資源を求めて大々的に海に進出しており、船舶や海底の掘削活動など、あらゆる騒音を海の中に放っています。
研究主任のコーエン・エレマンス(Coen Elemans)氏は「1970年代にクジラの歌を発見したときに比べて、現在の海は人為的な騒音がはるかに増えている」と指摘します。
加えて、人間が出す騒音とクジラたちの声の周波数が完全に重なっているせいで、クジラたちはますます自分たちの声を聞き取りにくくなっていると考えられるのです。
そのため、人為的な騒音が深刻な場所では、シロナガスクジラの自慢の声も遠くまで届かなくなっているでしょう。
クジラ類にはシロナガスクジラを含めて絶滅が危惧されている種も多いため、海の巨人たちのコミュニケーションを邪魔しないような海洋保護活動が必須であるとエレマンス氏は話しました。
世界初!クジラとの20分間の会話に成功!研究者「この成果は地球外生命とのコンタクトにも役立つ」
参考文献
Baleen whales evolved a unique larynx to communicate but cannot escape human noise
How Far Can Blue Whales Hear?
元論文
Evolutionary novelties underlie sound production in baleen whales
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。