音楽大学卒業後の進路

 音楽大学卒業後の進路はどうなっているのか。たとえば東京藝大音楽学部の23年3月卒業者(216人)の進路状況をみてみると、就職は13%、非常勤・自営業が24%、大学院進学・海外留学が45%、未定が19%となっている。また大学院音楽研究科修士課程卒業者(104人)は就職が25%、非常勤・自営業が35%、大学院進学・海外留学が25%、未定が15%となっている。ちなみに就職先としては、TBSホールディングスやJTB、NHK、富士通、任天堂といった大企業のほか、学校教員、自衛隊(音楽隊)などもみられる。ちなみに学部・修士あわせた全卒業者のうち交響楽団への「就職」となっているのは3人のみだ。

「国内最高峰である東京藝大でこの状況なので、他の音楽系の大学・学部では、卒業後に音楽関係の仕事に就く人の割合はもっと少なくなるとみられる。ただ、今では美術大学の卒業生の就職状況は非常に良く、さまざまな業界でデザイン関係ができる人材への需要は高い。特に上位の音大卒ともなれば『突出して秀でている点を持っているのは評価できる』と判断して積極的に採用する大企業も少なくないので、学生側も純粋な音楽の仕事というこだわりを捨てれば、それなりに良いところに就職できるのではないか」(大手予備校関係者)

 一般的に音楽大学卒業後の就職というのは厳しいものなのか。前出・石渡氏はいう。

「音楽活動は本人の才能とコネクション、運などで相当変わります。有名な楽団で欠員が出るとすぐ応募が殺到するほど競争率が高いです。音楽業界の就職は専門性が高いこともあり、かなり限られます。音楽教室だと、受講者が多いか少ないかで収入が変動します。受講者数が少ないと、手間がかかかる割に月10万円程度しか稼げないこともあります。音楽の教員は採用はあるものの、非常勤講師ということも多く、そうなると安定しているとはいえません。

 音楽以外の業界への就職だと、採用で不利になることはありません。むしろ、根性がある、などと評価されます。現在は学生有利の売り手市場なので、音楽大学出身だから落とすという企業はまずないでしょう。問題は学生のほうで、音楽関連かどうかにこだわりすぎると苦戦することになります。例えばですが、『音楽はひとまず趣味にしておいて、仕事はまったく別』という割り切り方もあるわけです。現にピアノ系ユーチューバーとして有名なハラミちゃんは、音楽大学卒業後、音楽とは無関係の民間企業に就職。その後、YouTube活動を始めて現在に至っています。こういう割り切り方をできるタイプなら就職できますが、そうでなければ、売り手市場であっても就活で苦戦することになります。厳しいことを言えば、音楽大学卒業の苦境は音楽大学が悪い、というよりも本人が招いてしまっているケースが多いです」

 では、受験や入学~卒業までの労力・コストと卒業後の就職などを勘案すると、コスパが悪いという側面はあるのか。

「コスパの良し悪しとしては、はっきりいうと悪いです。もっといえば、コスパがどうこう、という話を気にする家庭であれば音楽大学進学はお勧めできません。幼少期から楽器を始めてコンクールなどでも評価されている、音楽大学卒業後も海外留学を含めて30歳くらいまでは本人が無収入でも音楽活動をバックアップできる、という余裕のある家庭であれば音楽大学への進学もいいでしょう。しかし、現実にはそうした家庭は少なく、だからこそ、どの音楽大学も大学経営で苦戦しています。

 20年には辻井伸行さんを輩出した名門校の上野学園大学が募集停止を発表しました。現在は複数の音楽大学が入試で実技を課さない教育・ビジネス系の学科・専攻を新設し学生を増やそうとしています。それでも大幅な改善には至っておらず苦戦が続いています」

(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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