日本企業を取り巻く環境の変化も
ーービジネスをめぐる能力が多角的に問われるようになったということですね。
永井:ひと昔前は、ステレオタイプ的に英語が使えるだけの人材でも重宝されていました。今は信頼関係を構築する、相手を説得するなど目的に対して最適なコミュニケーションを英語で成立させることが求められる時代が訪れています。
ーー日本企業やブランドが、海外マーケットでパワフルな存在ではなくなったことは関係がありますか?
永井:ジャパンブランドを理由に、相手が理解してくれる時代はもう終わったと耳にします。アグレッシブにコミュニケーションを取り「理解をしよう」と働きかけを行う、さらに意思決定のスタイル、スピード感、ビジネスの感覚がまるで違っている他国企業と競争していますね。
ーー中小企業は、よりシビアに体感しているかもしれませんね。
永井:中小企業は、人材不足が喫緊の課題です。外国籍人材の採用をしたくても言葉の壁が立ちはだかり、積極的に踏み切れないケースも多いです。
ただ、日本は経済力だけでなく、文化や観光などでも魅力がある国だとされてきましたが、インドやベトナムなどの優秀なIT人材が日本で働くためには「日本語を学ぶ」必要がある。そのような状態が続くと、将来は国際的な人材獲得競争に負けてしまうのではないかと私は危惧しています。もちろん為替レートや、他国と賃金格差、制度的な要因なども背景にありますが、同じように感じている中小企業は増えつつあるのではないでしょうか。
TOEICの生みの親”は日本人ビジネスパーソン
TOEICの生みの親・北岡靖男さん
永井:ところで、‟TOEICの生みの親”が日本人だということはご存じですか?
北岡靖男(きたおか・やすお)という『Time(米のニュース雑誌)』を刊行するTime社に24年間勤めた日本人が発案者です。
英語力を客観的に把握する「モノサシ」を作ろうと、すでに海外の大学や大学院で学ぶために必要とされる英語運用能力を測定するTOEFLテストの開発などを行う世界最大のテスト開発機関であるETSへ働きかけをして生まれました。
英語力を正確にスコアにするというコンセプトから生まれたからこそ、「合格」「不合格」という基準が設けられていないのです。
1970年代に日本は経済大国として積極的に海外展開を進めているにも関わらず、英語でコミュニケーションが取れないというだけで、商談や会議で実力を発揮できない日本人ビジネスパーソンを憂慮して、TOEIC Programを実現しようとしたんです。
ーー日本語が不得意な外国籍の人々とコミュニケーションを図る必要に迫られているケースが増えて、その「憂慮」するべき対象が、これまで英語に関心がなかった層にも広がっているように感じます。
お話をうかがい、私もコミュニケーションをさらに上手に行うために、TOEIC Programに挑戦してみようという気持ちになりました。
永井:ぜひTOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)だけでなく、TOEIC Speaking & Writing(以下、TOEIC S&W)を英語学習を成功に導くためのツールとして活用してください。
「英語を学んでから」TOEIC Testsを受ける方が多いですが、これはもったいない。学習を始めるときにスコアの高低を気にする必要はありません。正確に現在地を知ることが重要です。ご自身の得意・不得意をちゃんと知って英語学習の方法やツールを選び、学習計画に役立てるという使い方、‟Test for Learning”を広めていきたいですね。
ーースコアが低くても「伸びしろがある」と思うようにします(笑)。
永井:そして「学習」ばかりに没頭してしまわないように「生の英語」にどんどん触れていただきたいです。
海外とのリモート会議にまずはオブザーバー(傍聴者)として出席したら、「自分の考えを伝えたい」と学習意欲が芽生えるかもしれない。英語スキルで実現したいことを目標や目的にするその道しるべとしてスコアを利用するといいかもしれません。
しかし、スコア300~400台で、英語でやりたいことがみつからないという人は、まずはスコアアップを目標にしてもよいと思います。500点、600点と英語力が身についてくると、自分の目標が見えてきます。……矛盾しますが、スコアを励みにしてみてください。