その一方、アラブの春で誕生した「民主政権」は、どれひとつとして機能せず、地域に混乱をもたらしただけですし、アフガニスタンでも欧米は撤兵し、タリバンが政権に復帰しました。

国際法の遵守が大事なことは言うまでもないですが、それだけで平和など保てません。なんでも弁護士を立てて法廷で争い、裁判に勝ったら100パーセントの正義があるという傾向がアングロサクソンにはあります。正当防衛であるなら、過剰防衛も広く認められます。相手を挑発しても先に手を出させたらすべて正義なのです。アメリカの裁判では誤審で死刑にしてしまったなどというのもよくありますが、手続きをきちんと踏んでいたら仕方ないと彼らは考えます。

慰安婦問題で、日本人は駐留軍だって日本でよく似たことしたのにと思うのですが、彼らは米軍が関与していないといえるように注意深く行動しており、日本軍は脇が甘かったのです。現実論としては、アングロサクソンと付き合うときは、常に弁護士に相談しながらっという気持ちが大事ですが、アメリカなどが弁護士的な論理を振りかざしすぎるのは、世界の将来にとってかなり危険だと思います。

安倍晋三元首相は、中国に対抗するために、「普遍的価値(自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済)に基づく外交」を提唱し、「自由で開かれたインド・太平洋」という構想を実現し、とくにインドを仲間に引き入れました。インドはロシアと密接な関係にあることは承知の上で、誘ったわけですし、安倍首相が27度もプーチン大統領と会談したのも、中国とロシアが接近することを防ぐためでしたから、すべて水の泡ともいえます。

それから、国際法秩序に基づく支配を強化しようということには、もうひとつ、落とし穴があります。いまは、国際法の世界は欧米支配です。しかし、多くの国際機関が中国やその息がかかった国によって牛耳られるようになっています。国際司法裁判所など国際法を運用する機関においても、そうなっていくだろうと思います。その可能性を無視して、この問題を論じるのは危険です。

経済制裁も常に期待が大きすぎるし、制裁した側の打撃も大きいのです。一見、平和的にみえるので、なにかといえば、経済制裁ですが、北朝鮮のように資源も食料もない国でもあれだけ長い経済制裁してもへこたれないし、しわ寄せは指導者層より一般庶民にいっており、餓死者続出は誇張だが、健康状態を悪化させている。

ロシアのような食料とエネルギーの輸出国に経済制裁したら、した方のダメージが大きくなるのは最初からわかりきったことです。実際、資源の高騰でロシアは大儲けしているし、中国やインドのように制裁に加わらない国は安く購入できて万々歳なのに対して、日本などアジア諸国にとっては打撃が深刻です。

さらに、もうひとつ、最近、アメリカのやり方に疑問を持っているのは、アメリカの戦争が、自分たちの側の犠牲に比べて相手側の犠牲を多く出しすぎることです。太平洋戦争で米軍の戦死者は10万人ほどで民間人犠牲者は極小です。それに対して、日本は二百数十万人の戦死者に、100万人ほどの民間人死者を出しています。そのなかには、原爆や東京京大空襲の死者も含まれています。

イラクでは米軍死者が5000人でイラク人は数十万人死んでます。それに対して、ソ連はドイツに勝ったがはるかに死者は敗者より多いのです。ウクライナでもロシアの戦死者の方がウクライナの戦死者より多いし、うっかりすると民間人犠牲者を含んでも多いかもしれません。

だいたいアメリカの戦争は、道義的にはもっともなことが多いし、国際法的には問題が起きないように考えてます。だからといって、相手方の死者がいくら多くてもいい、相手方の飲めない和平案に固執して戦争を続けるのが正しいとは思いません。