大分市長としては、きめ細かく、しかも、全国で前例のない施策も広瀬知事との良好な関係も生かしながら霞ヶ関を説得して実現し、抜群のフットワークを見せ、とくに新型コロナ対策の充実は全国でも屈指の成功例と評価されている。たとえば、駅前に抗原検査センターを設置したとか、初期に感染者が立ち寄った店の名前を公表して疑心暗鬼が広がるのを防いだとか賛否両論あったが官僚らしからぬ対応だった。
一方、安達澄は別府市の生まれで、上智大学法学部を卒業して、7年間、当時の新日鉄に勤めたが、朝日新聞社に転じて12年間、在職し、その間にアイルランドで研修している。その後、2015年の別府市長選挙に立候補したが敗北し、旅行会社を設立した。しかし、すぐに2019年の参議院選挙に野党統一候補として立候補し番狂わせといわれる見事な当選をした。
今回の戦いは、普通に考えれば、県内17市町村長のすべてなど各種団体の支援を受け、自民党と公明党がついて、連合や立憲民主党は中立というのだから、佐藤が圧倒的に優位のはずである。
ただ、安達の辞職に伴って参議院補欠選挙も行われるので、自民としては、佐藤と共闘したいし、それはもともと佐藤との関係が悪くなかった野党や連合はほどほどにして欲しいという綱引きがある。
もうひとつは、佐藤が三代連続の経済産業省出身の官僚ということと、安達としては安達の若さに活路を見いだしたいところだ。
ただし、平松、広瀬の県政についても、佐藤の大分市政についても、野党的な立場に立ってもさほど不満があったわけでないし、平松・広瀬・佐藤はキャラクターがまったく違うので、安達は具体的な批判をしているわけでない。
また、「現場主義」を強調して、対話の中から政策を生み出すようなニュアンスだが、四年間も参議院議員していたのだから、そういう対話は十分にしてきたはずで、今回の選挙では、対話の結果として、自ら独自政策を打ち出すのが普通だが、していない。
民間人としての経営センスといっても、新日鉄と朝日新聞で、いずれも中途半端なキャリアだったし、大分に帰ってきたあとは、小さな旅行会社をわずかの期間、経営していただけなので、経営者としての手腕の実績もない。
現在のところ、佐藤は地道に支持を広げ先行しているが、安達もそこそこ善戦である。浮動票では拮抗している。ある意味では、安達が佐藤との正面きった政策対決といったものに巻き込まれずに、ムード選挙に徹していることで「善戦」の実績をつくろうとしているには成功している面もある。
すでに書いたように、奈良では山下、徳島では後藤田が優勢だが、いずれもウリはイケメンともやもやした改革気分だ。もっとも、そういう気分を国政の場では野党は活かせてないのは、岸田がイケメンだからだろうか。
■
「日本の政治「解体新書」:世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱」(小学館新書)