インドネシアの急激なDX化は、「Gojek」なくして語れないといっても過言ではないだろう。

インドネシアには、伝統的な交通手段としてOjekというものがある。要するにバイクタクシーだが、それをスマホアプリで手配できる配車サービスとして「Gojek」が広く利用されている。2010年代中頃にあったAndroidスマホの爆発的普及もあり、Gojekはたちまちインフラ的存在になった。

今やバイクタクシーだけでなく、四輪車手配やフードデリバリー、処方箋医薬品の配達、キャッシュレス決済「GoPay」も用意している。

そんなGojekが、日本のフィンテックサービス企業と手を組むことで新たな進化を遂げようとしている。

車を持っていない出稼ぎ労働者

ジャカルタ、スラバヤ、バリ島南部などの都市部で稼働しているGojekのライダーもしくは四輪車手配サービスGoCarのドライバーの大半は、地方出身者である。

中央政府は良しとしていないことではあるが、インドネシアでは「国内出稼ぎ」というものがある。農村部から都市部あるいは天然資源の採掘場がある地域へ若者が働きに出るというものだ。農繁期・漁繁期に帰郷すれば、本来の家業とも両立できる。

問題は、初めて都市部へ出稼ぎにやって来た人のほとんどがバイクすら持っていないことだ。

そこで日本のGlobal Mobility Service(以下GMS)は、IoTデバイス「MCCS」を設置した車両をGojekでの就労希望者に提供する事業を展開する。このMCCSは、車両の走行状況や速度などをデータとして算出・可視化し、それを金融機関の持つ与信情報と組み合わせて自動車ローンやリースの積極的な提供に活用する。

Image Credits:PR TIMES

なぜ、そのような仕組みをインドネシアで導入しようとするのか。それはこの国では、銀行口座を持っていないがゆえに、従来型の与信審査では省かれてしまう人が多いからだ。

ドライバーの「働きぶり」を可視化するデバイス

日本は世界的に見ても、金融インフラが比較的充実している国であろう。

メガバンクと同等かそれ以上に地域住民に活用され信頼されている地方銀行や信用金庫が各地域にあり、そして金融事業を取り扱う郵便局が全国各地に存在する。大人だけでなくティーンエイジャーもどこかに口座を持っている。

しかし、インドネシア、特に農村部や地方島嶼部では全く世界が異なる。「家の近くにATMがないから銀行口座など必要ない」と考える人や、「銀行に預けた金は返ってこない(預金の意味を知らない)」と思っている人が珍しくないというのも実情だ。

とはいえ、銀行口座はなくとも勤勉な働きぶりを発揮する人なら、自動車ローンを毎月支払ってくれるだろう。つまりMCCSは、ドライバーの「働きぶり」を可視化するデバイスとなるのだ。もしも支払いが滞ったときは、遠隔で車両の起動を制御することもできる。