ホンダ アコードのフルモデルチェンジは2022年11月に北米で発表され、国内仕様は2023年9月に披露。発売は2024年3月で、ようやく試乗まで辿り着くことができた。
アコードは今、ホンダのフラッグシップモデルに鎮座することになる。レジェンドがフェードアウトして文字通り伝説と化したため、アコードは大衆ファミリカーとしてデビューした新人が社長に上りつめた感がある。11世代目になる新型アコードの主戦場はもちろん北米になるが、フラッグシップだけに国内での販売にも力は入る。
ターゲット層は40〜50代で、量販なものではなく、上質、高品質を好み、気に入ったもの、好きなものにはお金をかけるようなアーバンダンディがターゲットという。その彼らがアコードに乗ると、通勤やレジャーでは快適に移動でき、運転していると気持ちが整ったり、考えがクリアになっていく。クルマから降りると「いいクルマだな」という感想になる、というのが開発陣の想いだ。
したがって提供価値を漢字で表すと「格」「艶」「整」「冴」「進化」というワードを掲げ、英語ではAccomplished、Revitalize、Advanceであると。かなり哲学的な開発コンセプトがあり、基づく想いを載せていることも伝わってくる。こうしたワードで表現されるのが、デザイン、ダイナミック性能、NVH、安全、コネクテッドといった車両性能に結びつけて開発されている。
全部にテコ入れ
新型アコードの寸法を見ると全長は4975mmで、先代より+75mmとサイズアップ。しかし、全幅1865mm、全高1549mmm、ホイールベース2830mmはサイズアップしていない。つまり全長のみ長くなり、その分ルーフラインからテールにかけてのスリークなシルエットが際立ち、低いロングノーズとワイドなスタンスはオーセンティックなセダンの佇まいというわけ。
真横からのシルエットは平べったくシュッとした印象で、リヤウインドウのなめらかなラインはセダンには見えない美しさ「艶」を感じる。前後のオーバーハングが大きいのは全長を伸ばした影響なのだが、そこからクラシックな印象にはならない。ただ個人的にはフロントのオーバーハングは短い方が好み。
正面は薄い目つきとフロントグリルからは「冴」の文字が脳裏に浮かび、冴え渡った挙句にキチンと「整」うというビジネスシーンまで妄想できそうな顔をしている。
パワーユニットはe:HEVの一択。2.0Lガソリンエンジンのハイブリッドで、システム全体が刷新された新ユニットになっている。エンジンはポート噴射から直噴へ変わり、環境性能、燃費性能を向上させるための技術を搭載して開発した。エンジンを覗いてみると、熱損失を低減するために燃焼室の低S/V比化を行ない、高圧噴射、マルチ噴射といった最新の燃焼技術へとアップデートしている。
モーターも変更され、従来の駆動用モーターとエンジンは一つのカウンターギヤを共有していたが、それを平行軸に変更し、モーターとエンジンを個別に制御できるレイアウトに変更している。またPCUパワーコントールユニット(主にインバーター、DC-DCコンバータ)の小型・軽量化、IPUインテリジェントパワーユニット(主にバッテリー)の軽量・小型化をしている。
その結果、出力は先代からエンジンは108kWにアップし、モーターは152kW、トルクはエンジンが182kW、モーターは335kW、そして燃費のWLTPは23.8km/Lへとそれぞれ向上している。先端の技術を投入することで「進化」があり、このパワーユニットで走ってみると「格」と「冴」そして「艶」を感じることができるのだ。
ポイントはモーターとエンジンをそれぞれ制御できるようにしたことで、モーター走行での最高速を上げながら、エンジンは低回転クルーズできるようになった。以前の仕組みでは、相手の駆動力に合わせることになるため、効率という点でも改良できているわけだ。
走るのが好き
そしてホンダらしいと感じた部分になるが、ステア操作による横Gをセンシングすることで、「今、ワインディングを走っている」と車両が判定する。すると常時ハイブリッド走行になる制御が組まれているのだ。つまり、エンジンとモーターの双方で力強く、反応が機敏で、操舵が楽しくなる走りに変わるというわけだ。
新型アコードは、PHEVやEVではないので、バッテリーは小さい。そのためレスポンスに優れるEV走行としたいところだが、HEVゆえにエンジンは必ず始動する。だったら、常に始動させてしまえば応答遅れなどストレスを感じることはない。アクセル開度に合わせるようにエンジンの回転も上がるし、モーター駆動も加わり、高級セダンでありながら、スポーティな走行ができるのだ。こうした思考は「進化」につながる制御でホンダらしさに感じる部分でもあるのだ。
一方で高速道路で緩加速をするような場面では、エンジンは低回転で静かに回り、EVの応答性で対応する。こうした制御はPUCやIPUの進化によってモーター性能が強化できていることで可能にしている。
信号停止からの加速、追い越し加速といった場面では、ステップATのような加速をすることで、CVTの違和感はなくなり、加速度と車速の連動ができ一体感が生まれてくる。
そしてパドルシフトによる回生エネルギー制御も4段階から6段階に変わり、フットブレーキを使わずとも減速できる減速度の設定変更をしている。さらに、ワンペダル走行も可能であり、マイナス・パドルを長引きすると減速度が固定できるので、長い坂道を下る場合など効率的に回生できる賢さがある。