World Bankによるとインドにおける2022年の労働人口は、約5億5,400万人であった。日本における同数値は約6,900万人であったことから、単純計算でもインドには約8倍のマンパワーがあることになる。

インドにおける労働人口の特徴としてあげられるのが、その8割にあたる4億5,000万人が家政婦、配管工、建設現場などで肉体を駆使した仕事をしている所謂“ブルーカラー労働者”であるという点だ(参考)。しかも、ブルーカラー労働者への需要は、急速に進む都市化やインフラ整備が進むインドにおいて、今後さらに拡大すると言われている。

このようにインドの経済成長そして社会を支えるブルーカラー労働市場。しかしながら、その重要性にもかかわらず、労働者が仕事を探す際の信頼できる情報や透明性が欠如しているという状況があるという。仕事に就いてもスキルとのミスマッチにより職を失う、雇用主からの不当な支払いを受けるなどといったことが社会問題となっている。

一方、雇用主側も、必要なスキルを持った人材を探し、採用するのに時間とコストがかかるうえ、求職者による経歴詐称のリスクなど、最適な労働力の確保が困難である実情がある。

こうしたなかで「インドのブルーカラー労働者がかかえる課題を解決したい」と考えたのが、当時iPhoneのプロダクト・ストラテジー(製品戦略)に従事していたNirmit Parikh氏だ。同氏は2018年にApple社を退職。その翌年にスタートアップApnaを立ち上げ、求人プラットフォーム「Apna」をローンチした。

そしてApnaは設立からたった21か月にして、シリーズCで1億ドルを資金調達。評価額11億ドルのユニコーン企業となり、Parikh氏はインド、そして世界で注目される起業家となった。

AIによる精度の高いマッチング

Image Credit:Apna

Apnaには現在、5,000万人以上の求職者と60万人以上の雇用主が登録しているという。その膨大な数ある両者の最適かつスピーディーなマッチングを可能にしているのがAIのアルゴリズムである。

求職者の利用方法は簡単で、自分のプロフィールを「Apna」に登録するだけだ。求職者は、都市、職種、企業名、賃金、夜勤、テレワーク、パートタイムなど個々の多様なニーズから検索できる。

Image Credit:Apna

設立当初は、配達員、清掃員、大工などのブルーカラー労働者の就職を支援するために立ち上げられたApnaだが、ブランドの認知度と信頼が高まるにつれ、幅広い層から支持を得るようになり、現在では、マーケティング、医師、経理・財務などのプロフェッショナル求人も含め75種類以上の職種のネットワークがあるという。

ユーザーからの評価が高いポイントとして言えるのは、その登録者数の規模だけではない。現在、7割の新卒がApnaを使って就職先を探しており、Google Playでも4.4とユーザーから高い評価を得ている。

さらに、ここ数年で拡大しているのは女性の求職者からの支持だ。The Economic Timesによると、2021年のコロナ禍において女性ユーザーが430%と急増したという。

2024年4月現在、Apnaの女性向け求人は、3,400以上ある。同サイトの新卒採用求が約1,200、在宅ワークの求人が約1,000であることから、女性向け求人の多さが伺える。

マハトマ・ガンジーが「女性が夜道を自由に歩けるようになったその日、インドは独立を達成したと言えるでしょう。」と言ったように、インドにおいて女性の安全性の確保は長年課題であった。Apnaというオープンなプラットフォームにおいて、女性が安全に職を探すことができるようになったという。

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企業側はサイトから登録し、Apnaコインを購入することで、求人情報をポストできる。

AIのアルゴリズムによる企業と求職者のマッチングにより、Apnaによる採用プロセスのROI(投資利益率)は市場よりも40%高いという。なおApnaの収益は全て企業からで、求職者からは得ていないようだ。

Apnaは常に求職者にとって公平であることを心がけている。企業ID確認手続きはもちろんのこと、採用者側が一度ポストした求人を編集した場合、すでに応募した候補者にとって不利な内容に変更されていないか、Apna側がチェックした後、サイトに反映されるようになっている。