【注目モデル・疾走る】手強い、でもそれが楽しい。マニアを魅了するフェアレディZ NISMOのエネルギッシュ・パフォーマンス
(画像=日産フェアレディZニスモ/価格:9SAT 920万4000円。ニスモはZのスポーツ性を磨き込んだFRマシン。スポーツカーの本質である走り/曲がり/止まるという能力をスープアップした、まさにチューンドカー。専用チューンのVR30DDTT型はノーマル比15ps/45Nm増の420ps/6400rpm、520Nm/2000〜5200rpm。全域パワフルでシャープな吹き上がりを見せる逸品、『CAR and DRIVER』より引用)

NISMOは限られたZマニアのための特別仕様

フェアレディZ(以下Z)は1969年の誕生以来、日本を代表するスポーツカーとして強い存在感を発揮してきた。どの世代も個性的で、世界観が明確である。中でも最新のRZ34は、偉大な初代S30のイメージを再現したことで、往年のファンが色めきだった。Zとほぼ同じ時代を生きてきた50代半ばの筆者もそのひとりだ。

しかしデビューしても、生産台数の制約からか、なかなか注文さえできない状況を残念に思っていた。そんな中、2024年モデルの発表とともに、エボリューション仕様に当たる「NISMO」が登場したのは素直にうれしい。ただし販売については制約がある。購入できるのはすでに標準車を注文し、現在納車待ちのユーザーがNISMOに切り替えを希望する場合に限られる。

【注目モデル・疾走る】手強い、でもそれが楽しい。マニアを魅了するフェアレディZ NISMOのエネルギッシュ・パフォーマンス
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)

RZ34は実質的にはフルモデルチェンジに相当するほど新しくなっている。しかし形式的には2008年に登場した6世代目のZ34の大幅改良版という位置づけとなる。走りはモダンにして新鮮。これまで標準車を何度かドライブしたが、そのたびに、Z33やZ34で痛感した粗削りな乗り味がぐんと洗練され、ここまで乗りやすく快適になったのかと大いに感心していた。
NISMOは、最新Zのスポーツカーとしての側面を一段と際立たせたモデルである。なお、ZのNISMOは、Z33からラインアップされており、今回で3世代目となる。

420psを誇る絶品V6ツインターボ、圧倒的な速さとFRならではの操縦性がうれしい

スタイリングは標準仕様以上にアグレッシブかつ魅力的。ロングノーズのシルエットをそのままに、NISMOらしいデコレーションを施した内外装は、随所に配された赤いアクセントが目を引く。派手なウイング類こそないが、バンパーやエアロパーツが変更され、ステルスグレーのボディカラーがよく似合う。

トランスミッションはATのみ。MTを設定したかったのに、何らかの理由でできなかったか。はたまた、GT-Rと同様、誰でも速く走れるようにと2ペダルのみに絞ったのかは不明。いちファンとしては意外というか残念な気がしている。

【注目モデル・疾走る】手強い、でもそれが楽しい。マニアを魅了するフェアレディZ NISMOのエネルギッシュ・パフォーマンス
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)
【注目モデル・疾走る】手強い、でもそれが楽しい。マニアを魅了するフェアレディZ NISMOのエネルギッシュ・パフォーマンス
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)

期待してレカロ製シートに腰を下ろす。サイドブレーキはレバー式。Zにサイドブレーキを利用して挙動をコントロールするイメージはあまりないが、「いざというときに、そういう使い方ができるように、Zはレバーを今後も残す」という話を開発関係者から聞いたのを思い出した。

標準車の15ps増の420ps、45Nm増の520Nmまで引き上げられた3リッターのV6ツインターボは実に魅力的だ。ターボラグを感じさせることなく、ハイスペックFR車らしく強力なトルクでグイグイと後ろから押し出してくる感覚が終始味わえる。しかも実用域からパワフルなだけではない。レッドゾーンの7000rpmまで勢いを衰えさせることなくスムーズに吹き上がる。

ATが9速というのもポイントだ。エンジンの実力を適切なギアでダイレクトに引き出してくれる。「直結感」はMTと大差はない。おかげでFR車らしく挙動をアクセルワークで積極的にコントロールしていける。走りを楽しむには、やはりマニュアルモードがいい。一方で、100km/h巡行時には1400rpmを下回るほど余裕たっぷりなことも印象的だった。

エグゾーストサウンドも迫力がある。スタンダードモードでも十分にNISMOらしいと感じた。だが、スポーツ系の走行モードを選択すると、よりいっそう野太く低い音になる。スポーツ派のドライバーを刺激する快音だ。

フットワークの完成度も抜群。ブランドアンバサダーの田村宏志氏が「GT-Rがモビルスーツだとすると、Zはダンスパートナー」と説明するように、標準車は、どちらかというと人に優しいスポーツカーだった。ところがNISMOは明確に違う。Zのスポーツカーとしての本能を呼び覚ましたような味付けだ。ハンドリングに磨きがかかり、リアルスポーツらしく鋭い回頭性を実現している。ステアリングの手応えはダイレクトそのもの。応答遅れが払拭されていた。

【注目モデル・疾走る】手強い、でもそれが楽しい。マニアを魅了するフェアレディZ NISMOのエネルギッシュ・パフォーマンス
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)
【注目モデル・疾走る】手強い、でもそれが楽しい。マニアを魅了するフェアレディZ NISMOのエネルギッシュ・パフォーマンス
(画像=『CAR and DRIVER』より引用)

標準車は街中や高速道路を快適にドライブすることを念頭にチューニングされており、ワインディングロードではやや物足りない印象があった。NISMOは違う。旋回速度を高めるほどに操縦性の良さとシャープさが際立つ。ロールなどの不快な挙動もよく抑え込まれている。

足回りは相応に強化されていて、ごく普通に走っていると硬さを感じるシーンがある。とはいえ、振幅を抑えた乗り味は、コツコツとした感触こそあるが、跳ねや突き上げはあまり気にならない。このあたりのさじ加減は巧みだ。同乗者への配慮も忘れていない。

NISMOは、「運動神経抜群のダンスパートナー」である。スカイラインNISMOが究極のGTカーだとすれば、ZのNISMOは、ミドル級スポーツカーの究極を追求している。高性能エンジンと引き締まった足回りを持つFR車という、ある意味、古典的な世界観ながら、乗っている間ずっと、特別なクルマを操っている、という高揚感を感じた。まさにスペシャルなZ-CARである。