最適解ではなかった

「やはりこの話からしないと、(ブリーフィングが)先に進まない」。本ブリーフィングで佐藤氏はこのように切り出し、一連の騒動の経緯を報道陣に説明した。

「時系列を整理すると、まずF・マリノスの選手(畠中)が交代の準備を終えて、第4の審判員も交代ボードで選手の背番号を準備(表示)し、今まさに交代しようとしている。このタイミングで、フィールド上のF・マリノスの選手(渡辺)が負傷で座り込みました」

「F・マリノスにとって、これがこの試合3回目の交代でした。今は交代人数5人まで、回数はハーフタイムを除いて3回までというルールです。F・マリノスとしてはここで交代してしまうと(畠中のみ投入してしまうと)、これ以上の交代ができなくなる(負傷した渡辺に代わる選手を投入できず、試合終了まで10人で戦うことになる)。なので交代を待ってくれと。渡辺選手が負傷したので、第4の審判員としてはドクターをピッチに入れるか入れないか、担架が必要かどうかのコミュニケーションを主審とすることになり、これにフォーカスします」

「そうしたら今度は名古屋から選手交代が2名発生しました。その後、F・マリノスが負傷した渡辺選手の分の選手交代(山根)を追加するということで、交代の手続きをすると。ただ、この時点での試合再開方法は名古屋のスローインで、(ピッチ上の選手の)準備は完全に整っている。こうしたなかでレフェリーは(横浜FMの)交代を後回しにして、試合を再開しました」

「まず皆さんにお伝えしたいのは、これ(今回の審判団の措置)は競技規則の適用ミスではないということです。ただ、この場面をご覧になられた皆さんは色々なことをお感じになられたと思います。我々も一つずつ分析して、当該審判員ともすぐ話をしました。(交代を認めずに)試合を再開しちゃダメだった、ルールの適用を間違っているという話ではないです。ただ、一連の流れ(経緯)を見たときに、もう少し別のやり方があったのではないか。最適解ではなかったと僕は思います」

清水勇人氏 写真:Getty Images

佐藤氏が慮った審判員の心情

一連の騒動の経緯を説明した佐藤氏は、すかさず第4の審判員(※)の業務に言及。当該審判員の心理に配慮したうえで私見を述べている。

「第4の審判員にとって、競技者の交代に関する業務は複雑で、業務自体も多いです。交代選手がタッチライン付近に立っていると、『あとはピッチに入場させるだけでしょ』と思われがちなんですけど、審判チームとしてはこのときに3つやらなければならない業務があります。1つ目は交代回数や人数の確認。交代が3回・5人以内に収まっているのか。これが間違っていたら大問題です。2つ目は、交代のときに提出される交代用紙とメンバー表原本の照合。3つ目は交代で入る選手の用具(スパイク等)チェックですね。これらは競技規則上、審判員が必ずやらなければなりません」

「交代ボードの設定を各チームのスタッフが担うリーグや大会もありますが、通常は第4の審判員の業務です。日本(Jリーグ)では今も第4の審判員がやっています」

「(名古屋vs横浜FMではこれらの)業務に時間がかかり、審判員はとてもプレッシャーを受けたと思います。(特に横浜FMの)監督やコーチ、通訳の方からですかね。そうしたなかで、名古屋の選手たちは試合を再開する準備ができている。こうしたところ(事情)で試合を再開させてしまいました」

「試合終了後に時系列を追った(経緯を整理した)のですが、交代手続きにすごく時間がかかっている(横浜FMが必要以上に時間をかけている)わけではなかったんですよね。ただ、本当にかかった時間は短くても、何かプレッシャーに晒されていると時間の経過を長く感じるとき、皆さんにもありますよね。レフェリーとしては速やかにプレーを再開しなければならない。アクチュアルプレーイングタイム(選手が実際にプレーしている時間)を確保しよう、アディショナルタイムが長くなりすぎないようになど、そんな気持ちにもなったのだろうと思います」

「なので、僕はこれ(清水主審の措置)を間違っているとは言いません。ただ、色々なことを考えたときに他にもやり方はあったのではないか。当該審判員にはこのように伝えましたし、他のJリーグ担当審判員にも映像とともに(本件を)共有しました」

「11人対11人でやるのがサッカーの基本です。でも、11人対11人になるまで必ず待つかと言われたら、それはケース・バイ・ケースだと思います。今後、Jリーグで色々な選手交代が行われるでしょう。少しでも状況が違えば、そこから導き出される答え(審判団の措置)が変わってくるので、(名古屋vs横浜FMの騒動について)この場で1個ずつ話すつもりはありません。ただ、色々なことを考えたときに、選手交代を全て終えてから試合再開という方法もあったよねと。色々な考えがあるなかでレフェリーが試合をリードしていく、(多くの人から)受け入れられるレフェリングを目指していくのが大事だと思います」

(※)選手交代手続きや、ベンチ入りスタッフ・選手の行動を管理する審判員


佐藤隆治氏 写真:Getty Images