報道が減るという意味は2つあります。1つは報道する新たな情報や事実が少なくなっている場合と報道をしたくない場合です。前者はともかく、後者の場合、これは事実関係を公平に報じるべく報道機関の在り方としては正しいスタンスとは言えませんが、人間が書いている記事である以上、これは人の性とも言えるのでしょう。お気に入りのチームが試合で負けた記事を丹念に読む人が少ないのと同じです。
さて、最近、ウクライナの戦況を報じる報道はやや減ってきているように思えます。戦いが膠着しているのもあると思うのですが、思うように進捗していない、これが事実ではないかと思います。ウクライナ側に立つ西側報道機関は限られた情報の分析が主体ですが、目に見えて大規模な動きは出ていません。比較的日本人が得やすい情報ソースとしてBBCの日本語版があります。7月31日版で見るとゼレンスキー氏が「戦争は徐々にロシア領に戻りつつある。ロシアにとって象徴的な中心地や軍の基地へ。これは不可避で自然で、まったく公平なプロセスだ」と述べています。今まではウクライナ領を守り、ロシアを押し出す動きを中心にしていましたがロシアにドローンなどで直接攻撃を加えることを正当化しつつあると読み取れます。
ウクライナは戦争前から武器取引が多く行われた要注意国扱いでした。そこに欧米が武器弾薬を供与すれば目的外で使用されるリスクがあり、欧米が一番懸念しているところです。武器が仮にモスクワ攻撃などに使われたとすれば欧米諸国は今後の武器供与には二の足を踏む公算が高まってしまいます。
またポーランドの専門家は「『ロシアと敵対する恐怖のほか、武器供与による自国の防衛力低下への恐れがある』と分析する。『供与を表明した多くの兵器が修理が必要ですぐに送れないことが判明した可能性もある』」(日経)と述べています。ポーランドは今回の戦争で最も恐怖感を味わっている国の一つでウクライナへの武器供与も群を抜いて多くなっています。そこから「ロシアと敵対する恐怖」という言葉が出てくるとすれば欧州のスタンスは腫れ物に触りたくないという状況だと推察できます。
さて、この戦争が始まって以来さして注目されたことがないのがロシアの飛び地、カリーニングラードです。こればバルト三国の西側でポーランドの東側にあるロシア領で第二次大戦の遺産とも言えるべき地域です。現在はロシアの経済特区で産業が盛んなところですが、バルト艦隊の本拠地でもあります。飛び地なのでロシアは現在、そこに自由なアクセスをとれません。そこで急速に注目され始めたのがスヴァウキ ギャップ(スヴァウキ回廊)と呼ばれるものでベラルーシからカリーニングラードまでの96キロのポーランドとリトアニアの国境です。
ロシアにとって飛び地のカリーニングラードへの補給路がない、ならばこの回廊を押さえてしまえばバルト三国が逆に飛び地になるというオセロゲームが生じるのです。NATOにとっても以前からこの回廊はアキレス腱とされてきました。もちろん、そこにロシア軍が入ればNATOは黙ってはいないと思いますが、仮に回廊(つまり国境)だけをロシアが抑えればどうなるのか、これはかなりエスカレートした展開になり、ポーランドとバルト三国は恐怖のどん底に陥れられるでしょう。