
一見ブランニュー、実は改良型。高い人気は商品企画力の勝利
デリカミニは人気絶頂。だが完全なニューモデルではない。内容的にはekクロススペースのマイナーチェンジ版。改名してデザインを大幅に変えたクルマである。
ネーミングや、「デリ丸。」などのキャラクター設定、そして何よりタフなSUVイメージのしつらえは実に巧み。売れ行きは好調そのものだ。なんとeKクロススペース時代の3~4倍に増えたという。商品企画力の大勝利といってよい。車名に「デリカ」とついていることから興味を持ったユーザーが大勢いるに違いない。
このところSUV風味の軽ハイトワゴンが増えてきた。その中でデリカミニは本格派のイメージ。ひときわ異彩を放っている。先日「2023-2024 デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」に選出されたのも記憶に新しい。


とはいえ見た目の雰囲気は大きく変わったが、クルマとしての基本はekクロススペースを踏襲している。メカニズム上は日産ルークスとBROS車の関係にある。
室内は「アウトドアはもちろん、子育てファミリーも便利に使えるように配慮した」と開発陣が語るように実用的。いたるところに収納スペースが設けられている。水平基調の精悍な色合いのインパネは、「本当はもっとデリカらしい雰囲気にしたかった」らしい。さすがにマイナーチェンジでは難しかったそうだ。
シートには撥水性のある生地を採用。雨滴なども簡単に拭き取れる。それでいて生地の見た目や触れたときの質感は上々。着座感はソフトだ。一見、フラットな形状ながら意外とホールド性に優れることも好印象である。


空調も凝っている。基本的にeKクロススペース時代と同様なのだが、注目すべき点がいくつかある。まず操作パネルがいい。大きなスペースを確保して直感的に操作できるよう配慮している。パネルには微妙に凹凸が設けられており、操作音も出るのでブラインドタッチもしやすい。吹き出し口の位置もちょうどよく、ドリンクホルダーと連携した作りとなっている。頭上にはプラズマクラスターを備えたリアサーキュレーターを備える。後席に小さな子どもを乗せるケースも多いキャラクターなので、こうした親切装備はうれしい。その他、前席シートヒーターやステアリングヒーター、後席向けのリアヒーターダクトとロールサンシェードも装備されていた。
使い勝手は高水準。リアシートは320mmのスライドとリクライニング機能を内蔵。乗車人数や荷物などに合わせて自在にアレンジできる。荷室の開口高は1080mmあり、フロアも低めなので荷物の積み下ろしもしやすい。
ややクセのあるエンジン特性。タフな足回りに好感
テスト車は最上級グレードのTプレミアムの4WD。64ps/100Nmのターボエンジンと2.7ps/40Nmのモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドである。動力性能は十分ながら、エンジン特性にはひとクセある。低回転域がリニアではないのだ。右足を踏み込むと、あるところからオーバーゲインぎみにトルクが盛り上がる。
ごく普通にドライビングする場合や、アクセルを軽く踏み増したときにはリニアに反応するが、素早く深く踏み込むと、一呼吸を置いてから強い加速が始まる。それは市街地だろうと高速だろうと、どの車速域でも同様だ。再加速する際はパドル操作でシフトダウンしたほうが走りやすい。エンジン回転数が上がると、やや騒々しいことも気になった。
これではACCはスムーズに働かないのではと危惧したが、それは杞憂だった。ACCはエンジン特性をあらかじめ想定した設定なのか、少しでも流れていれば車間距離を適宜保持する。停止してしまうと少々もたつくのだが、限られた動力性能をめいっぱい駆使して前走車に追従していることが伝わってくる。制御はなかなか上手い。
これは試乗車固有の現象なのかもしれないが、ACCで都市高速を走っていた際に、思い当たる原因もないのに不意に一時的に機能が停止されることがあった。少々気になった。


足回りはデリカを名乗るだけに、しっかりとした印象。Tプレミアムの4WDは外径の大きな165/60R15サイズのタイヤを履き、サスペンションは専用にチューニングされている。その完成度はなかなか高い。路面からの入力を上手く吸収して、乗り心地は快適。しかも、カーブでのロールは適度だ。ぐらつきはよく抑えられている。ステアリングフィールも心地いい。反応は素直で手応えは上質。直進安定性もまずまずだ。
未舗装路でも安心感は変わらない。路面の影響を受けにくくステアリングも取られない。トラクションも優れている。下回りを見ると、アーム類を守るための簡易的なガードが装着されていた。デリカミニでもさすがはデリカの弟分である。見た目だけでなくSUVとしての本質も追求している。ユーザーの期待を裏切らない。