米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳、水原一平氏が違法賭博を行っていたとして球団から解雇された問題。水原氏は自身が大谷のパソコンにログインして大谷の銀行口座から勝手に違法ブックメーカーに送金し、大谷はその事実を一切知らなかったと主張しているが、水原氏と大谷の広報担当者は米メディアの取材に対し当初、水原氏が賭博でつくった450万ドルの借金を大谷が肩代わりして支払ったと回答。さらに大谷の広報担当者は「大谷は『何度か大金の送信をしました。送れる最大限度額でした』と言った」とコメントしていることから、米国では水原氏と大谷側の主張に疑問が拡大。また、もし仮に当初の証言どおり大谷自身がブックメーカーに送金していたとすれば大谷も刑事責任を問われる可能性もあり、米国のメディアやSNS上では大谷に批判的な声も広まっているようだ。
事の発端は、FBI(米国連邦捜査局)が元ドジャース選手の違法賭博事件への関与を捜査していたなかで、調査を受けたブックメーカーのマシュー・ボウヤー氏へ大谷の口座から送金がなされた記録が見つかったことだった。米メディア「ESPN」は大谷の代理人に、大谷からボウヤー氏への送金記録があることについて問い合わせ、大谷の広報担当者は、水原氏が賭博でつくった450万ドルの借金を大谷が肩代わりして支払ったとしたうえで、「大谷は『何度か大金の送信をしました。送れる最大限度額でした』と言った」と回答。19日、水原氏はESPNの取材に応じ、ボウヤー氏が関与するブックメーカーで賭博をするようになり借金が膨らみ、23年には借金が400万ドル(約6億円)に膨らみ、返済苦に陥り友人などから借金を重ねていたと説明。その上で以下主旨のコメントをした。
「生活はギリギリでやりくりが大変だった」
「大谷の信用を失うのが怖かった」
「大谷には言えなかった。生活苦だった。支払いから支払いの綱渡り。彼のライフスタイルとも合わせなければならなかったからだ。でも、同時に彼には話したくなかった」
「借金の返済を大谷に依頼した」
「大谷はよく思っていなかったが、二度とやらないように私を助けてくれると支払ってくれた。大谷は賭博には一切関与してないことをわかってほしいし、私もこの賭博が違法だとは知らなかった」
「大谷が自分のパソコンから複数回に分けて送金した」
(大谷が送金相手が違法なブックメーカーだと認識していたのかについて)「大谷は何も知らなかった。私はただ、借金を返済するために電信で送る必要があると言っただけです。彼はそれが違法かどうかは訊いてこなかった」
大谷は自身の口座から「ローン」という名目で数カ月にわたり1回あたり約50万ドル(約7600万円)で8~9回ほどに分けて送金したと水原氏は説明した。
だが、翌20日になって大谷の広報担当者はESPNに対し、大谷は水原氏の賭博や借金について一切把握しておらず、水原氏は虚偽の内容を話していたとして、水原氏へのインタビューを報道しないよう要請。さらに球団側から事情を聞かれた水原はESPNに連絡し、インタビューで証言した内容を撤回。大谷は水原氏の賭博による借金については把握しておらず、送金もしていないと証言。同日中には大谷の代理人弁護士が「大谷が大規模な窃盗の被害に遭っていることが判明した」とする声明を発表。その直後に水原氏は球団を解雇され、大谷の広報担当も大谷は水原氏の賭博や借金、送金の件を知らなかったと主張している。
「この説明の信憑性は、疑問視されている」
すでに米メジャーリーグベースボール(MLB)が正式な調査に着手しており、米国の内国歳入庁(IRS)も捜査を開始。大谷の代理人も米国の捜査当局に刑事告訴しているため、今後、詳細な経緯が明らかになるとみられるが、注目されるのが大谷への影響だ。米国では約40の州でスポーツ賭博が合法化されているが、大谷と水原氏が住むカリフォルニア州では違法。また、MLBは選手やスタッフによる野球への賭博を禁止している一方、その他の競技については合法な賭博であれば認めている。水原氏は野球の賭博は行っていないと主張している。
水原氏が関与していたブックメーカーは違法業者とみられており、21日付ロサンゼルス・タイムズ記事によれば、もし仮に大谷が水原氏の代わりにこの事業者への借金を返済していた場合、違法な賭博事業者の債権回収に関与していたことになり、最低1年間の出場停止処分を受ける可能性があるという。
また、もし仮に大谷が広報担当者と水原氏の当初の証言どおり自身で送金しており、さらに大谷が水原氏から送金相手が違法賭博業者である旨を聞いていた場合、大谷が刑事責任を問われる可能性もある。
ドジャースの幹部は20日の試合後に全選手に向けて、水原氏が賭博で借金をつくり、大谷がそれを肩代わりして支払ったと説明していたとも報じられており(米紙ニューヨーク・ポストより)、米国メディアでは大谷に批判的な報道も目立ち始めている。
たとえばロサンゼルス・タイムズ紙は、水原氏が勝手に送金したとの証言について「この説明の信憑性は、その後の暴露のために現在疑問視されている」として、「彼(=大谷)の沈黙が憶測に拍車をかけている」と指摘。USAトゥデイ紙は昨年まで大谷がプレーしていたロサンゼルス・エンゼルスの関係者の「大谷がまったく知らなかったと信じるのは難しい。どうすれば大谷が違法賭博の疑惑のかかる胴元へ50万ドルの送金が複数回もあったことに気が付かないという可能性があるのだろうか」というコメントを伝えている。