組織市民行動

 いくら欧米企業が日本企業ほどコミュニケーション能力を求めていないとしても、ビジネスの遂行でコミュニケーション能力が問われないということはないだろう。欧米企業の経営スタイルは近年、変化しつつあるという。

「欧米企業が分業化・細分化を進めすぎた結果、業務と業務の間が抜けてしまって、組織が回らないという事象が起きています。私の仕事はここまで、あなたの仕事はここから、という両者の間には必ず別の仕事があるのです。しかもビジネスでは必ずイレギュラーな事態が発生しますが、イレギュラーの担当が明確に決まっていなければ『明確に決まっていないことはやらない』という判断になり、その対応が確実に抜け落ちてしまいます。こうして分業化・細分化が行き過ぎると組織が有機的に回らないことに気づいたのです。この弊害を克服するためにアメリカで組織市民行動という概念が提唱されました」

 組織市民行動は目の前で困っている同僚を助けるなど善良な市民としての主体的・自発的な行動を指し、業務だけでなく会社のイベントに積極的に参加する行動なども含まれる。1980年代に、米国インディアナ大学のデニス・オーガン教授が日本企業を研究した結果、担当外の業務でも柔軟にサポートすることが大事であると分析し、多くの米国企業で導入された。この概念は日本にも逆輸入されているが、たとえ担当業務外でもサポートする行動は日本企業ではごく当たり前だったので、あえて概念化されなかったのだ。この組織市民行動をめぐる日米企業の関係が逆転したという調査があるという。

「最近、中国、アメリカ、日本の各企業でどれだけ組織市民行動が実践されているかという国際調査が行われたのですが、今は中国とアメリカの企業よりも日本企業のほうが組織市民行動は低いという結果が出ました。実際、今の外資系企業は社内の飲み会や合宿などイベントを結構開いていることから、コミュニケーションをかなり重視していると思います。本国の本社でもコミュニケーション能力をかなり評価する流れにあり、採用では専門スキルだけではなく、前職のプロジェクトでどのようにチーム内で動いたかなどを審査しています」(同)

 ちなみに、コミュニケーション能力を必要としない職場とは、どのような職場が想定されるのだろうか。

「AIなどによって一人ひとりの分業制が確立して、イレギュラーが発生しないで未来の事象を全て予測できる経営環境なら、コミュニケーション能力がなくとも会社は回るでしょう。しかし、その環境では人間が必要ないかもしれません」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所シニアコンサルタント)

提供元・Business Journal

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