元日本マイクロソフト社長で現HONZ代表の成毛眞氏が2月16日付「東洋経済オンライン」記事で、アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス氏の組織観について取り上げている。社内研修の場で数人のマネジャーが「従業員はもっと相互にコミュニケーションを取るべきだ」と提案したところ、ベゾス氏は立ち上がって「コミュニケーションは最悪だ」と力説したという。このエピソードについて、成毛氏は「ベゾスにとって、コミュニケーションを必要とする組織は、きちんと機能していないという証拠でしかないというのだ」と補足する。

 多くの業務がチームプレーで運営される日本企業の場合、コミュニケーション能力は新卒採用でとくに重視されてきた資質のひとつである。だがメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換が進むなかで、ベソス氏発言が象徴するように、コミュニケーション能力のウエイトも変化しているのだろうか。

 まずは職場でのコミュニケーション能力のあり方を確認しておきたい。人材研究所シニアコンサルタントの安藤健氏は次のように説明する。

「日本企業では、職場で人と協働・協業するときに仕事の仕方やトラブルシューティングなどコミュニケーション能力がベースになっています。日本企業の過去の失敗経験として、学歴が高く、頭の回転も速く、論理的思考力も高い社員が皆を置いてきぼりにしてしまったり、足並みを揃えなかったりして、結局は自分一人で仕事を抱え込んで潰れてしまうとか、他の社員から『あいつ頭は良いけど、一緒に働きたくない』と評価されて皆が離れていくといった例がありました。こうした経験を経て、他者と協働する力であるコミュニケーション能力が求められている実態は今も変わっていません」

ジョブ型人事の下では業務が分業化・細分化

 コミュニケーション能力のウエイトは日本企業と欧米企業では異なるようだ。背景には業務遂行体制の違いがある。

「欧米企業のジョブ型人事の下では、業務が分業化され、細分化され、明確化されています。社員一人ひとりの責任と権限の範囲が明確に線引きされているため、『それは私の仕事ではないので知りません』という意見が通る環境で、周囲と足並みを揃えるコミュニケーション能力よりも職種ごとのスペシャリティが重視されます。決められた業務範囲でパフォーマンスを上げてくれればいいのです。これに対して、日本企業は就職感よりも就社感が強く、社内の人材流動性が高く、業務間の線引きがあいまいです」(同)

 欧米企業の場合、例えば採用担当者の業務は、人材を発掘するソーサー、面接の日時を調整するリクルーターもしくはコーディネーター、面接を行う面接官に分業化されているという。対照的に日本企業の採用担当者はすべての業務にかかわっているケースも多い。