その後、1996年にCTBTが合意され、核実験の包括的禁止に向かって世界は動き出した。337カ所の監視施設からなるグローバルネットワークは地球上のどこででも核爆発を監視する。地震活動を監視し、海洋の音波、大気中の音波、空気中の放射性粒子を検出し、そのデータをウィーンのCTBTOに送信する。データはすべてのCTBT加盟国が共有する。

しかし、核兵器を取り巻く状況は2021年以来、変わってきた。フロイド事務局長は、「新しい戦争と紛争によって引き起こされた不安と不確実性が高まってきた。核兵器が再び公衆の意識に戻ってきた。オスカー賞受賞のオッペンハイマー映画のおかげではない。1つの国が非常に懸念すべきレベルの高濃縮ウランを蓄積しているとの報告がある。いくつかの国の旧核実験場での活動の増加に関する報告が届いている。いくつかの国が核兵器の使用を検討している可能性がある」と指摘した。

(オーストラリア外交官出身のフロイド事務局長は国名を挙げなかったが、イランは核兵器用の濃縮ウランの生産に邁進し、ロシアと中国は旧核実験場での活動を活発化し、ロシアはCTBTから脱退し、北朝鮮は核兵器の増強に余念がない)。

同事務局長は、「不確実な時代には、より多くの確実性が最良の対応だ。CTBTの検証システムは、地球上のどこででも核爆発を検出できる。透明性をさらに高めるためのツール、確実性を提供するためのツール、信頼を築くためのツール、秘密裏にテストを行っているとの疑念や主張を晴らすためのツールを有している」と強調、①国際監視システム(現在90%完成)②協議と明確化、③信頼構築メカニズム、④現地査察の実行の4点を挙げている。

フロイド事務局長は最後に、「2021年以降、世界は変わったが、CTBTが発効すれば、世界はもっと確実性と信頼が生まれ、共有された政治的指導があれば、私たちは2度と核兵器による無差別な破壊を見ることがなくなるだろう」と強調した。

CTBTOから配信されたフロイド事務局長のスピーチテキストを読んでいると、「悔い改めよ、天国は近づいた」と砂漠で叫び続けた洗礼ヨハネの姿を彷彿させる。事務局長には申し訳ないが、世界の流れはここにきて核兵器の価値の見直し、その核の抑止力の強化といった方向に傾斜してきている。第2次冷戦時代の到来だ。

例えば、北朝鮮は核兵器を自国存続の保証と考えているから、核カードを放棄することは絶対にない。朝鮮半島の非核化は金正恩総書記体制が続く限り、考えられない。金正恩総書記は、核開発計画を放棄した直後、権力の座から追放されたリビアのカダフィー大佐の二の舞を踏まないからだ。

参考までに、核開発計画放棄表明後(2003年)、リビアが欧米諸国の支援を受けて国民経済を発展させ、繁栄していったならば、核兵器を模索している国も“リビアに続け”ということになっていたかもしれない。時代の針を元に戻せないが、リビアのカダフィー政権の崩壊は世界の非核化プロセスからいえば、大きな後退となった。その後、“第2のリビア”は出現していない。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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