3.富山市から学んだこと

このような背景から、多くの自治体では、インフラの再整理を前面に出さず、既存のインフラを維持していくことを前提に、効率的にインフラの質を保っていく方法を模索している。

富山市では、インフラの選択と集中の下、2023年11月現在の時点で道路橋2橋撤去済、2強が撤去計画中だった。コンパクトなまちづくりを推進しているから富山市だからこそ、インフラの選択と集中という方針が抵抗なく住民に受け入れられたのではと思っていた。

しかし、富山市の職員と触れるうちに、多様な考えや価値観を持った住民と落としどころを見つけながら、住民の気持ちに寄り添いながらインフラの選択と集中を推進する姿勢が伺えた。また、行政の予算案は議会に提案され、議会の議決を受けた後に予算が決定する流れとなるため、過疎地域や山間部のインフラを縮小する事業を実行するためには地元議員との調整等、議会との連携も不可欠である。

コンパクトなまちづくりを推進していたからできたのではなく、コンパクトなまちづくりを通して培った合意形成の経験やノウハウが活かされていることの方が、インフラの選択と集中の実現に寄与していたのではないかと考えが変わった。

インフラの再整理が工学的、財政的なマクロな視点から合理的であっても、社会に実装する過程では人との対話や合意形成が慎重になされており、行政の土木職員の守備範囲の広さに驚いた。

4.おわりに

「橋梁を守るために市が破綻するのか、市を残すために橋梁を減らしていくのか」

これは多くの日本の地方自治体が直面している状況である。全ての自治体が、直ちにインフラの選択と集中に舵を切ることは難しいが、住民と対話し合意形成をすることが実装へのカギとなるのではないか。

人口減少下の日本において、安全・安心・快適な社会を維持していくために、今あるインフラを全て守り続けていくことは難しい。インフラの「量」と「質」の両方を追求する時代から、自治体や地域の特性、構造物の重要度や必要性に応じてどちらかを選択しなければならない転換期を迎えているのではないか。

豊かな生活を持続させるためには、国土強靭化や国際競争力強化のための新設財源も必要である。手遅れになる前に既存インフラの「量」をとるか、「質」をとるかを慎重な判断を下すことが求められている。

インフラ老朽化問題を起点にこれからの日本のあるべき国土の在り方を考えていくにあたり、対処療法ではなく、既存の構造システムを変えられるような提案とその実現を目指し、今後も研鑽を続けたい。

並松 沙樹 松下政経塾44期塾生。東京理科大学理工学部土木工学科、東京工業大学大学院環境・社会理工学院博士課程修了。博士(工学)。鉄道会社で土木構造物の維持管理や研究開発に従事、研究だけではなく国土政策にも関心を持ち、現在に至る。専門はコンクリート工学、維持管理工学、土木史。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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