恩赦法は成立したが、それが施行されることはないであろう

以上のような背景があって恩赦法が成立した。プッチェモン氏は帰国できる道が開けた。ところが、事態は彼らが考えていたようにスムースには進まない。その結論を先に言えば、この恩赦法は最終的には欧州司法裁判所がそれを却下するようになるということである。基本的にスペイン憲法で違法とされている恩赦の付与が欧州司法裁判所で認められることは先ずないからである。

この恩赦法が下院で可決すると、スペインの判事や検事ら司法界が一斉に立ち上がってその成立に反対を表明した。唯一例外は憲法裁判所の裁判長と検事総長の二人であろう。彼らはこれまでもサンチェス首相の操作で動いて来た人物だ。

サンチェス首相は恩を売って代わりに忠実であることを要求する人物だ。彼の元閣僚などは天下りで国営企業のトップなどに就任している。そのようにして、サンチェス首相は味方を増やして来たのである。スペインの民主化以降、歴代首相の中で彼ほど私欲が強く、自分の考えをその後都合上180度転換するような首相はこれまで皆無である。だから彼の発言は全く信頼されていない。

この恩赦法は近く上院に回される。上院は国民党が過半数を占めているので、この承認を最大限遅らせることは確実だ。その限度は2か月。そのあと憲法違反だとしてそれを再び下院に回すことになるはずである。下院でまた審議が再開されて、最終的に法制化されるのは5月中頃から下旬になるはずである。

しかし、一旦法制化されても裁判所の裁判官がそれに従うことは先ず考えられない。恐らく、欧州司法裁判所の裁定を仰ぐはずである。そうなると、その裁定が下されるまでに少なくとも1年半はかかる。それまでプチェモン氏は帰国できない。仮に、帰国しようとすれば逮捕されるのは必至である。

特に、問題となっているのは、今回の恩赦法の中に反逆、横領そしてテロ活動が含まれているからである。これらの行為がカタルーニャの独立の為に実施されたのであればこの恩赦法によって無罪とされるのである。

そんなバカな法律などありえないはず。ところが、サンチェス首相の欲望が影響してそのような法律が成立したのである。さらにこの法律の無謀性はテロ行為もそれがカタルーニャ独立の為に導かれた行動であると判断されれば合法化されるのである。

今回の恩赦法の中にテロリズムを加えたのは、スペイン最高裁でツナミ・デモクラティックがカタルーニャの暴動を扇動し、空港なども占拠し、治安警察官の二人を重症させ職場復帰を不可能にさせた。その首領がプチェモン氏であるという証拠が挙がっている。それに基づいてスペインの最高裁が彼を起訴することを最近明らかにしたのである。それによる逮捕から逃れる為にプッチェモン氏はそれも独立運動を導くための行為の一つであったとして合法化させるべくこの恩赦法に最終の修正案で加えたのである。

しかし、欧州司法裁判所ではテロ行為については裁定は厳しく、恩赦法で謳われているようなテロ行為を合法化させるような恩赦法は同裁判所で受理されることはまずないであろう。

カタルーニャ州議会が前倒し選挙の実施を決めた

しかも、更に問題が重なったのは、カタルーニャ州議会の選挙が前倒しされて5月12日となったのである。今年のカタルーニャ州の予算案が議会で承認されなかったのが要因だ。プッチェモ氏は州議会選挙に臨む希望を持っているが、帰国すれば逮捕される可能性が高い。なぜならそれまで日数的に恩赦法が法制化されている可能性はまずないからである。しかも、この法律を欧州司法裁判所で審査が要望されたら、その判決が下されるのは最短でも2025年である。

それまでにスペインでも前倒し総選挙が実施される可能性も十分にある。仮に総選挙が実施されれば、野党の国民党が政権に復帰することは九分九厘決まっている。サンチェス首相が選挙で敗退した後も党のリーダーとして存続する可能性はまずない。社会労働党の内部の刷新が行われるのは確実である。現在の社会労働党はサンチェス首相に乗っ取られた政党で、本来の国家政党としてあるべき姿がなくなっている。だからこれまで歴史的に同党の重鎮として存在していた多くの党員が離党している。

サンチェス首相が自らが政権にしがみ付く為に成立させた恩赦法は逆にそれが災いして最終的には彼の政界からの失脚を導くようになるであろう。スペインの不幸はもともと首相になる資質も器量もない政治屋が首相になったことである。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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