【拝啓、徳島より・18】四国といえば、弘法大師・空海が修行した八十八カ所の霊場を巡る「お遍路さん」が有名ですが、各地には88のお寺の他にも、弘法大師にまつわる魅力的なスポットがたくさん残っています。徳島県海陽町の「鯖大師本坊」もその一つ。全国に広がる鯖大師の発祥となった場所で、1200年の間、地域の人々に大切に守られてきました。特に鯖大師本坊で行われるお護摩祈祷は、他とはちょっと違う雰囲気です。異世界に旅をしたような不思議な初詣体験を紹介します。
鯖を持った弘法大師?
徳島県を北から南へ突っ切り、高知まで伸びる国道55号線。太平洋を望む道沿いには、時折、笠をかぶったお遍路さんの姿も見受けられます。
「室戸阿南海岸国定公園」に指定されている自然豊かな徳島県南部エリアをさらに南へ。いくつものトンネルを抜けて、小さな入江や波待ちしているサーファーを横目にしばらく走ると、「八坂八浜」と呼ばれる浜に到着します。
弘法大師が詠んだ歌にも登場する美しい三日月型の浜の向かいに建つのが、今回ご紹介したい「鯖大師本坊」です。さば!?と聞き返したくなる名前ですが、お大師様とのご縁も深い、由緒正しいお寺なんです。
正式名称は「鯖大師本坊」。その昔、弘法大師・空海が修行でこの地を訪れた際に、馬で塩鯖を運んでいた馬子(荷物を運ぶ職業の人)の欲張りな心を改めさせるために、鯖を生き返らせた伝説にちなんだお寺です。
鯖大師には、その名の通り片手に鯖を握った弘法大師像が祀られていて、鯖を3年間絶ってからお願い事をすると願いが叶うとも言われています。
ただ個人的には、徳島県産の魚は鯖と言わずどれも美味しすぎるので、3年間も食わずにいるのは無理な話だよなぁと、挑戦する前から早々に諦めました。
さて、そんな鯖大師。地元民にとっては、知る人ぞ知るおすすめの初詣スポットなんです。
「鯖大師の護摩焚きが、やばい...!」
そう教えてくれたのは、地域の若い衆です。年末に集まって飲み会をしていた時のことでした。何がどんなふうに“やばい”のか、よくよく聞くと「異空間に飛んでいっちゃうような感覚」との感想が聞かれました。
なんだそれは。楽しそう...!具体的な風景は全然想像できませんでしたが、興味が湧いた私は友人を連れ立って、年が明けた元旦の朝、ワクワクしながら車を走らせたのでした。
洞窟の壁には仏像がびっしり
鯖大師に到着したのは1月1日の朝10時前。すでに境内には多くの人が参拝に訪れていました。お参りを済ませてから、本殿右手にある護摩堂へ。
護摩堂へと続く通路は暗く、前方に向かってゆるい傾斜になっていました。まるで洞穴みたい。後で調べたところ「本堂東の山腹をくり抜いて作られた全長88mの大洞窟」とのこと。ひんやりした空気や時が止まったような静寂は、自然の洞窟だからこそ醸し出せる雰囲気だったんだと納得です。
そのまま松明のようなオレンジ色の光に照らされた通路を奥へ進みます。壁には、ずらりと並ぶ仏像の顔、顔、顔・・・。もうこの通路を歩くだけで「これは、やばいぞ...!」と思わずにはいられない光景がしばらく続きました。