東京都内のある高級寿司店・A(イニシャル等ではない)を利用した女性客が、店主に殴られそうになったとX(旧Twitter)上にポストし、さまざまな声が寄せられている。女性客が店主にあることをお願いしたところ口論となり、店主が激高したといい、怒った表情で女性客に向かって身を乗り出す店主を他の店員が身を挺して必死で引き留める様子を納めた写真もポストされている。トラブルに発展した原因は定かではないが、高級寿司店では客側にも守ることが求められる不文律のマナーが存在するともいわれており、このポストをめぐってちょっとした議論が起きているようだ。

 一人あたりの費用予算が数万円にも上る高級寿司店。Aも約20品の寿司と小料理からなるコースの料金が4万円以上で、2人連れだと飲み物代やサービス料も含めて10万円を超える。一般庶民にとっては敷居の高い、まさに高級店といえる。

 一般的に高級寿司店では客が守るべき暗黙のルールが存在するとされる。飲食店オーナーはいう。

「寿司は素材が生もので味が極めてデリケートなため、強い匂いがする香水などをつけて行くのはご法度。最小限の料理人で鮮度が命の生の素材を使った料理を扱うため、下ごしらえも含めて料理の段取りは入念に計画されており、基本的にはコースで出される順番どおりに食べる。よって途中で個別の注文をするのは禁物。店によってはコースがいったん全て出された段階で、お好みでネタを注文することができる。もっとも、一度で食べられる量には個人差があるので、コースが始まる前に店主が『シャリは多めにしますか、少なめにしますか?』と聞いてくれる店が多い。出された寿司にいつまでも手を付けないでおくのもダメで、出されたらすぐに食べなければならない。これは、客に提供されたタイミングが『もっとも美味しい状態』となるようにつくられるから」

当日キャンセルは絶対NG

 予約やキャンセルにもルールがあるという。

「座席数が10席以下という店も多く、店側はその日に10人予約が入っていれば10人分の素材を準備する。使用される素材はどれも原価が高いものばかりで、当日キャンセルが生じると店側が多大な損失を被るので絶対にNGなのはいうまでもなく、数日前のキャンセルすらマナー違反。予約する際には、当日キャンセルは料金の100%にあたるキャンセル料が発生することを覚悟すべき。また、お会計は現金払いしか受け付けていない店も少なくない。カード払いだと入金が先になってしまい、個人経営の店は毎日、素材の仕入れがあるのでキャッシュフロー的に厳しいという事情もある」(同)

 このほか、店によっては『よしとされない』行為も存在するという。

「スマートフォンで料理を撮影したり、大声で話したりというのは、店の雰囲気が壊れるということで禁止にしている店もある。撮影する際は一言、店主に断りを入れたほうが無難。また、『美味しい』くらいはよいが、味についていちいち寸評を口すると店主の気分を害するので避けたほうがよい。これは寿司店に限らず人としての常識の問題だろう。また、稀にだが、お酒を頼まないと店主が不愉快な態度を示す店もある。お酒は原価率が高く店側にとっては利益率が高く、お酒である程度儲けが出ることを想定して料理の料金設定をしている店もあるからだ」(同)

 こうしてみてくると、高い料金を払うのにそこまで「気を使って」まで高級寿司店に行く必要があるのかと疑問を抱く人もいるだろう。別の飲食店店主はいう。

「興味のない人は行かなければよいだけの話で、わざわざ高い金を払って寿司を食べに行く必要はまったくないと割り切れば済む。家でも酢飯に刺身を乗せて『海鮮丼』をつくれば十分に美味しいし、YouTubeで寿司の握り方を教える動画をみれば、費用1000円くらいで自宅で簡単に握り寿司なんてつくれる。もちろん高級寿司店と比べれば味は劣るだろうが、『酢飯の上に刺身』という構造は変わらないので、金額の差と同じくらい味に差があるのかといわれれば、ないでしょう。家でリラックスして自家製の海鮮丼を食べたほうが幸せだと感じる人が、わざわざ数万円も払って窮屈な思いをしてまで高級寿司店に行く必要はまったくない。

 高級寿司店は『客を選ぶ』もの。常連客で成り立っている店も少なくなく、高級寿司店に通うことにステータスや喜びを感じて足しげく通ってくれる常連客が心地よくいられる空間をつくることを店側が優先するのは当たり前」