2. 清潔な車内、丁寧なサービス

UberやOla Cabsの車の車内は、日本のタクシーの感覚からすると、きれいとは言いがたいことが多い。例えば、埃っぽかったり、シートが破れていたり、ゴミが落ちていたり、という具合だ。またシートベルトについては、バックル部分がシートに埋まっており、使えないことも多い。

インドでは交通ルールがしっかり守られているとは言いがたい場所も多く、運転が荒い車も多い。日本にいる時以上に確実にシートベルトをしたいのだが、それが使えないとなると不安だ。

先日乗ったUberの車。シートベルトはあるが、差込口がないので利用できない(筆者撮影)

一方、BluSmartの車は、シートも床も清潔で、シートベルトも問題なく使える。「きれいでシートベルトがある車」に確実に乗れるというだけで、大きな安心感と快適さを感じる。

またBluSmartは「運転中にドライバーが通話をしていない」ということも個人的にはありがたいポイントだ。

多くのUberやOla Cabsのドライバーは運転中に人(家族や友人)と通話をしている。絶対的にそれが良くないとは思わないが、車内でゆっくり休みたい時にドライバーの声が大きかったりすると快適ではないと感じてしまうのだ。

加えて、BluSmartのドライバーは制服を着ているため、サービスとしての「きちんと感」がある。
また見た目だけではなく、自分(利用者)への対応もUberやOla Cabsのドライバーと比較して丁寧だと感じる。

※UberやOla Cabsのドライバーの対応は常に悪いわけではないのだが「個人差が大きい」と感じる一方、BluSmartは全体的に質が高いという印象である。

ドライバーは制服を着ている(筆者撮影)

加えて、車内には何かあった時に利用者が押すことができるSOSボタンが2つある。

車内には2つSOSボタンがある(筆者撮影)

このようなことの積み重ねにより、「BluSmartは安心」というイメージが形成され、例えば長距離の乗車や深夜でも積極的にBluSmartを選びたいと感じる。実際、女性の利用率は他の配車サービスの1.5〜1.8倍であるという。

3. 混雑時の割増料金なし

またUberやOlaにおいては、需要が多い時間帯においては、状況に合わせて割増料金(Surge Price)が適用される。「人気の時期/時間は高い」というのは、例えば飛行機やホテルなどを始めとする各種サービスでよく見られる料金体系であり、それ自体は仕方ないようにも感じられる。

しかし、インドの配車サービス業界においては、割増料金について「不透明である」ということを理由に競争委員会 (CCI)から指導が入ったことがあるなど、透明性が問題になることもある。

またユーザからすると、混雑時の割増料金はないに越したことはない。BluSmartにおいてはこの割増料金がないことも売りの一つなのだ。

そして割増料金がないとはいえ、ベースの料金が高額なのかと思いきや、そうでもない。筆者がバンガロールで利用する際に比較した範囲では、UberとOlaと比べるとBluSmartは以下のような印象だ。

・最低金額が高いため、近距離においては相対的に高額になりやすい
・ある程度以上の距離になった場合は同等
・空港からのライドにおいては同等〜やや安価

このように、BluSmartは現在の配車サービスにおけるペインポイントが解消されている高品質なサービスだといえる。

※ただ、サービス品質は高いものの、BluSmartは現時点では配車数が少なく、原則として事前予約が必要である。また先述の通り使える都市もかなり限定的だ。配車数が多くサービス提供範囲が広いUberとOla Cabsと比較した時の弱みだといえるだろう。

高品質なサービスを実現できる、ビジネスモデル上の特徴

このような高品質なサービスを提供できる背景として、BluSmartがドライバーを従業員とする「タクシー会社」モデルを採用していることが挙げられる。

つまりこういうことだ。UberやOla Cabsの場合、ドライバーは個人事業主であり、自己所有している車を使う。よってUberやOla Cabsが担う主な役割は、ドライバーと乗客の「マッチング」である。

そのため、UberやOlaのドライバーは、メンテナンスコストや燃料チャージ代金、保険料、購入した車のローンなどを払う必要がある。結果として、ドライバーは無駄なお金を使いたくないと考え、車をきれいに保ったりするモチベーションが低い場合も多いというわけだ。

一方、BluSmartは自社でドライバーを雇い、車も貸与している。雇われているBluSmartのドライバーは、営業所に出勤し、そこに用意されている車に乗る。要は日本などでの一般的なタクシー会社と同じモデルなのだ。

作成:株式会社hoppin

そのような事業モデルを選択した理由について、筆者が共同創業者かつCBO(Chief Business Officer)のTushar Garg氏に書面でインタビューを行ったところ、以下のように回答を得た。

Tushar Garg氏(BluSmart提供写真)

“従来の配車サービスのドライバーは、資産(車)所有することによって、経済的負担や燃料費の高騰による収益の減少という問題に直面しています。一方、このアセット・フリー・ドライビング・モデル(ドライバーの自己所有車に頼らないモデル)を採用することで、BluSmartのドライバーは、資産(車)所有のストレスも、燃料費のストレスも、労働時間の超過もなく、運転というコア・スキルに専念することができます。

当社のドライバー中心のアプローチは、BluSmartのサービスを前進させることでより高い収入を得る機会を提供し、何千人ものドライバー・パートナーを幸せにしてきました。これが、私たちがこのモデルを選んだ根本的な理由です。”

Tushar Garg氏は、“ドライバーのために”車を個人で所有する必要がないモデルを選択したという。結果として、車体メンテナンスについては会社で一律に実施できること、またBluSmartとドライバーが雇用関係にあることから、車自体とサービスいずれも質のコントロールがしやすく、ユーザに向けても高品質なサービス提供ができているといえるだろう。

BluSmartの次の一手に注目

先述の通り、ユーザへの良い体験を提供する大きな鍵となっているのが、BluSmart側が車を保有する事業モデルだ。

一方で、個人事業主が自己所有の車を使用してサービス提供を行うUberやOla Cabsと比べると、BluSmartは車の管理と社員の管理を行う必要があるため固定費が高くつくモデルであるといえる。

実際、現在公開されているデータを見てみると、創業から2021年度(2021年4月-2022年3月)まで毎年売上は伸びているものの、同時に赤字も拡大している。※インドの企業局(Ministry of Corporate Affairs)へのBluSmartの提出データより

赤字であることが一律に悪いこととはいえない。また業界大手のUber、Ola Cabsいずれも赤字を出しながら運営を続けている。しかし、BluSmartはベンチャー企業である。資金を燃やし続けながらどこまで走り続けられるのだろうか。

持続と拡大に向けた、BluSmartの次の一手に注目だ。

筆者出演のBluSmartの解説ビデオ

【著者プロフィール】

滝沢頼子/株式会社hoppin

東京大学卒業後、UXコンサルタントとして株式会社ビービットに入社。上海オフィスの立ち上げ期メンバー。
その後、上海のデジタルマーケティング会社、東京のEdtech系スタートアップを経て、2019年に株式会社hoppinを起業。UXコンサルティング、インドと中国の市場リサーチや視察ツアーなどを実施。インドのバンガロール在住。