40Hzの刺激は脳内で40Hzの神経活動を誘発させる

蛇口システム(AQP4)はなぜ40HzでONになるのか?

研究者たちは答えを得るため、40Hzの刺激を受けたマウス脳内でどんな遺伝子が活性化するかをRNAの量を測ることで調べました。

DNAを全設計図とするならRNAは設計図の部分写しです。

細胞がタンパク質を生産する場合、全設計図DNAそのものをいちいち引っ張り出していては効率が悪いため、適宜に設計図の部分写しRNAを作成します。

そのためRNA量を調べれば、どの遺伝子が活性化し、どんなタンパク質が必要とされているかがわかるのです。

(※実験では単核RNAシークエンシング(snRNA-seq)を使用しRNA量を調べました)

すると、短い距離とのみ通信を行っている「介在ニューロン」から、いくつかのペプチド(アミノ酸の連鎖したもの)が信号として分泌されており、それが蛇口システムの活性化を起こしていたことが判明します。

実際、この介在ニューロンを遮断すると、洗浄液が流れずアミロイドβの除去もできなくなりました。

さらに神経活動を分析したところ、40Hzの刺激によって神経細胞もまた40Hzのパターンで活動を行っていることが判明しました。

おおまかに6つの段階を経てアミロイドβは脳の外に排出されます。
おおまかに6つの段階を経てアミロイドβは脳の外に排出されます。 / Credti:川勝康弘

まとめると、まず①音や光による40Hzの刺激が脳内で処理され、②情報が介在ニューロンに信号が送られると、40Hzのパターンの活動を引き起こし、③特定のペプチドを分泌して、④星状細胞にある蛇口システム(AQP4)を活性化させ、⑤脳を洗浄する脳脊髄液を放出してアミロイドβを洗い流し、⑥最後にリンパ管にアミロイドβを捨てます。

研究では40Hzの刺激によって脳の洗浄がすぐに始まることも示されました。

ただ認知に持続的な効果をもたらずには、数週間~数か月にわたって持続的な40Hzの刺激が必要であるとのこと。

もし同じ仕組みが人間でも起こるのならば、病室に常時40Hzの音や光を流すことでアルツハイマー病に効果が出るでしょう。

幸い、人間において毎秒40回(40Hz)は不愉快なブツブツ感をあまり感じることがないため、違和感なしに過ごすことができます。

もしかしたら未来の病院では、アルツハイマー病患者の部屋で40Hzの音楽が流れているかもしれませんね。

参考文献

How sensory gamma rhythm stimulation clears amyloid in Alzheimer’s mice

元論文

Multisensory gamma stimulation promotes glymphatic clearance of amyloid

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部