40Hzの音と光は脳内の洗浄システムを強化できる
なぜ40Hzの刺激がアミロイドβを除去できるのか?
調査にあたっては、アルツハイマー病のような病状を誘発するように遺伝子操作されたマウスが用意されました。
このマウスたちは普通のマウスと違い、若くして脳内でアミロイドβが蓄積し、アルツハイマー病のような病状を発症します。
研究者たちはまず、このマウスたちに40Hzの音と光の刺激を与え、アミロイドβが脳内から除去される方法を調べました。
この調査において特に着目されたのが、脳内の老廃物除去システム(グリンファティック系)でした。
脳内からアミロイドβが出ていく場合、脳に備わっている老廃物除去システムを利用していると考えたからです。
老廃物除去システムの仕組みを簡単に説明すると、以下の図のようになります。

脳内の血管にはその周辺部分に並行して、脳脊髄液が流れるラインが設置されています(図では血管の周りの部分)。
脳脊髄液は、ある種の洗浄液としての働きを持っており、動脈の周辺部から脳組織にしみ出して、老廃物を押し流します。
そして老廃物と混ざり合った洗浄液は、静脈の周辺部のラインに入ると脳から排出され、最終的にリンパ管に捨てられます。
研究者たちは40Hzの刺激をしたマウスとしなかったマウスを比較したところ、刺激を行ったほうのマウスのリンパ液にはアミロイドβの濃度が増加していることが示されました。
そこで研究者たちは40Hzの刺激を受けてたマウスたちの老廃物除去システム全体を詳細に観察し、どんな変化が起きているかを調べることにしました。
すると40Hzの刺激を受けたマウスたちは脈拍が増加すると同時に血管も拡張し、洗浄液の役割をする脳脊髄液と脳組織から出る間質液の両方が増加していることが判明しました。
さらに汚れを排出するリンパ管の直径も増加していることもわかりました。
この結果は40Hzの刺激が脳内の「洗浄液」の流れを強化して、有害なアミロイドβを脳の外へと洗い流していることを示しています。
ただこの段階では、洗浄の仕組みだけしか解明されておらず、どんな仕組みで洗浄液の増減が起きているかも不明でした。
そこで次に研究者たちは、洗浄液の蛇口となる仕組みを調べることにしました。
洗浄液の量を制御する蛇口システムの存在

なぜ40Hzの刺激が洗浄液を増やすのか?
謎を解くため研究者たちは、ニューロンの世話係として知られる「星状細胞(アストロサイト)」にに着目しました。
この星型をした細胞には洗浄液の量を調節する存在する蛇口システム「アクアポリン4(AQP4)」と呼ばれるスイッチが存在します。
この蛇口システム(AQP4)が働くと星状細胞は血管に並行する形で配管されているラインから洗浄液を放出させ、脳内の汚れを除去します。
研究者たちがマウスを遺伝子操作して、この蛇口システム(AQP4)を働かなくさせたところ、40Hzの刺激を与えても、アミロイドβの洗い流しが起こらなくなっていることが確認できました。
この結果は、40Hzの刺激によって洗浄液を増加させるには、蛇口システム(AQP4)にの働きが必要であることを示しています。
研究者たちも「脳脊髄液の流入はアクアポリン4の働き(分極)の増加と関連していた」と述べています。
しかしこの段階でも「40Hzでなければならない理由」までは解き明かされていません。
音と光が蛇口を揺さぶって洗浄液を流さたのでしょうか?
どうやら違うようです。