「思春期」の少年・少女が主役の学園モノやスポーツもの、ロボットSFなどを楽しみたい。「大人」にもそんなニーズがある。だが、実写ドラマは流行らない。なぜか? のめり込めないからだ。誰でもいい。若い人気タレントが、昔好きだった物語を演じるシーンを想像してみて欲しい。

タレントが「コスプレ」しているようなイメージが浮かばないだろうか。このタレントが演じるドラマ・映画に、のめり込めるだろうか?

小説なら、のめり込みやすい。

「小説を読むとき人は自分の年齢を忘れる」。小説「新宿鮫」の作家 大沢在昌氏が著書で述べた言葉だ。読者は、60代であろうが、70代であろうが、30代中盤のタフな主人公「鮫島」に自身を重ね合わせる(※1)。「画」がない分、想像の自由度が高いからだ。

アニメもそれに近い。実在し、その振舞いが日々報道されるタレントではなく、「絵」で描かれたキャラクターの演技は、受け入れやすい。現実には「ありえない」ストーリーであっても、アニメならのめり込める。

主人公は思春期だが、受け入れられやすい「画」と、大人が見ても耐えうる「ストーリー」で構成されたドラマ。そういったコンテンツはほとんどなかった。このニーズを捉え、そこにターゲットを絞り込んだジャパニメーションは、世界で人気を博し、アニメ市場を大きく広げていった。

ここ10年で世界のアニメ市場の経済規模は1.5兆円から3兆円へと倍増している。今後、さらに5兆円まで成長するという予測もある。アニメは数少ない日本の成長産業なのだ。

ジャパニメーションの悪評

ところが、「ジャパニメーション」は、海外の国際映画祭などで極めて評判が悪い。理由は、ターゲットを絞り込んだため、似たような内容になっていること。そして、暴力や性描写が多すぎることだ。

アニメ映画「この世界の片隅に」の監督片渕須直氏は以下のように述べる。

「海外の映画祭に行ってみたら分かります。完全にガラパゴスです。日本のアニメが出てきた途端に、なんか気恥ずかしい気持ちになって、海外の審査員の人が『またか』って言う」

日本アニメは世界の潮流から外れている 片渕須直監督が本気で心配する、その将来:朝日新聞GLOBE+

ジブリの宮崎駿監督や鈴木敏夫プロデューサーの「ジャパニメーション」評も辛辣である。

「暴力行為やいやらしい描写、いらんことをくっちゃべっているようなビデオばかり」「日本のアニメーションが世界いっぱい広がっていったら、恥をかくだけの道具でもあることを忘れないでほしい」 (宮崎駿監督)

「(ジャパニメーションは)外国では実はSEXと暴力の代名詞なんですよ」 (鈴木敏夫プロデューサー)

宮崎駿の仕事 久美 薫 (著)/鳥影社

ジャパニメーションが、アカデミー賞を取る可能性は低い。

ジブリの後継者はいない

では、今後、ジブリがアカデミー賞を受賞する可能性はどうか。これも低い。後継者がいないうえ、制作環境も変わったからだ。

宮崎駿監督が「千と千尋の神隠し」でアカデミー賞を受賞したのは2003年。その後、21年間受賞はない。結局、宮崎駿監督に続いたのは、前作と大幅に作風を変えた「宮﨑駿」監督だった(※2)。後継者が育っていない。このことは日テレ傘下となる理由の一つでもあった。

また、「君たちはどう生きるか」は、ビジネス面で成功したとは言い難い。23年の興行順位は3位、興行収入は83億円だった。ジブリ映画の損益分岐点は100億円といわれる。日テレ傘下となり、作家性より商業性が重視されるであろう今後のジブリが、同様の作品を作ることは難しくなる。

「宮崎駿」から「宮﨑駿」へ

わかる・わからない。面白い・つまらない。「君たちはどう生きるか」の評価は分かれた。宮﨑監督自身も試写会後

「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」

と述べた。難解なのだ。途中で映画館を出ていく家族もいたという。

これまでの、子どもから大人まで楽しめる映画作りをしてきた「アニメ映画監督」宮崎駿から、純「大人向け」――少なくとも子どもと一緒に楽しむものではない――映画を作る「作家」宮﨑駿へ。

この先、宮﨑監督が作品を作ったとしても、これまでのジブリファンのニーズを満たすものではないかもしれない。

「君たちはどう生きるか」 スタジオジブリより

※1 売れる作家の全技術 大沢 在昌/著 角川書店 鮫島は大沢在昌のハードボイルド小説『新宿鮫シリーズ』 の主人公 ※2 評論家の岡田斗司夫氏は「崎」が「﨑」に変わったことの意味を推測している。 【改名の理由】これ当たったら天才です。宮崎駿の「崎」が「﨑」に…これが意味するもの

【参考】 アニメ産業レポート2023 サマリー版

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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