自民党安倍派は、大規模な政治資金パーティーで巨額の収入を得て、その一部を裏金で所属議員に分配し、彼らは税金も支払わず、自由に使っている。そのことに対して国民は怒りを爆発させている。Xの投稿で、「納税の義務」「納税拒否」がトレンドになっているのも、そういう理由からなのである。

これまで、「自民党政治資金パーティー裏金問題」については、「東京地検特捜部による捜査」に関心が集中し、次々と報じられる検察捜査の展開についての報道を、国民は固唾をのんで見守ってきた。果たして、今回の「裏金問題」は何をどう問題にして、どうすべきだったのか。

これまでは、検察捜査に関心が集中し、政治資金規正法の視点ばかりが取り上げられてきた。しかし、もともと、政治資金規正法による処罰には限界があった。

むしろ、「課税の問題」「脱税の問題」がこの問題の本質ではないのか。政治資金規正法違反の刑事事件の結末に対して、国民が憤っていることの背景に、課税の不公平に対する強烈な不満・反発があるのである。ここで、改めて、今回の問題について「課税」という観点から取り上げてみるべきなのではないか。

この点について、「今回の政治資金パーティー裏金問題は脱税の問題ととらえるべき」と指摘してきたのが経済評論家の野口悠紀雄氏(一橋大学名誉教授・元大蔵官僚)だ。現代ビジネスの記事「パーティー券問題はなぜ脱税問題でないのか? 国民の税負担意識が弱いから、おかしな制度がまかり通るのだ」などで

パーティー券収入そのものが非課税であっても、使途を限定していないキックバックは課税所得であるはずだから、それを申告していなければ脱税になるはずだ。

派閥からは、キックバックは政治資金収支報告書に記載しなくてもよいとの指示があったと報道されている。ということは、政治資金として使う必要はなく、どんな目的に使ってもよいという意味だろう。だから、この資金が課税所得であることは、疑いの余地がなく明らかだ。

との指摘を行ってきた。

今回の問題が「政治資金規正法違反」としてとらえられてきた背景には、政党・政治団体・政治家の金銭のやり取りは、基本的に「政治活動」に関するものであり、「政治資金」である以上、すべてが課税の対象外だという認識があった。それは、政治資金収支報告書に記載されても、記載されない「裏金」でも同様であり、そこで所得税等の税金の問題が発生するのは、「政治資金を私的用途に流用した場合」、その事実が具体的に明らかになった場合だけだというのが、これまでの一般的な認識だった。

私自身も、今回の「裏金問題」について、安倍派(清和政策研究会)という「政治団体」とその所属国会議員という政治家の関係での金銭のやり取りだから、「政治資金」であり、課税の対象外と考えてきた。

これまで書いてきた記事でも、「裏金を、個人的用途に費消したり、個人的蓄財に充てられたりしていれば、個人の所得ということになり、税務申告していなければ脱税となる。但し、国税と検察で「逋脱犯の告発基準」を取り決めており、逋脱所得がその基準を上回らなければ脱税の刑事事件にはならない。」という趣旨のことを繰り返し述べてきた。

しかし、野口氏の見解は、それとは大きく異なる。

「使途を限定していないで受け取るお金」は基本的に「個人所得」であり、「政治資金」がその例外になるとすれば、そのための手続が正しく行われている必要がある。今回の問題のように、「政治資金収支報告書に記載しない」という前提で渡された「裏金」というのは、「政治資金」の正規の手続をとらない前提で渡しているのだから個人所得、という考え方だ。

野口氏の見解を前提にすれば、本来、今回の「裏金問題」は、検察ではなく、国税当局が動き、脱税での摘発を検討すべきであり、「裏金受領議員」も、申告していなかった所得税の修正申告を行って納税するのが当然だということになる。

「安倍派」は、キックバック分について、同派と派閥所属議員の政治資金収支報告書を一斉に訂正する方向で検討していると報じられているが、野口氏の見解によれば、キックバック分は、「個人所得」として税務申告すべきであり、「政治資金」として収支報告書を訂正するなどもってのほかということになる。

この問題については、そもそも、「政治資金」は、すべて課税の対象外とされているのか、課税の対象外とされるのはなぜなのか、それは、どのような法律上の根拠に基づくのかを、根本から考え直してみる必要がある。

その上で、「政治資金」が課税の対象外となることと、政治資金規正法上の手続がとられることとの関係、政治資金パーティーの収入はなぜ「政治資金」として扱われるのか、それはすべて課税の対象外となるのか、という点も考えてみる必要がある。