■短期間での開発体制
ダイハツに限らず、自動車メーカーは短期間での開発を目指している。通常のモデルチェンジサイクルを4年とすれば、商品企画で1年、その後の3年間で開発を行なうと考えられがちだが、現在では出図(デザイン、設計が完了し最終図面が承認された段階)から工場でのライオンオフ(工場出荷)までで12ヶ月が基準とされている。
こうした短期開発を実現するために、フロント・ローディング(部品の開発や発注、実験などの前倒し)、開発のための試作車は1台(1発試作)のみ、または開発試作車ゼロ、シミュレーション技術の活用(モデルベース開発)が行なわれている。
このような短期開発は、開発に関わる延べ投入人数、延べ工数の削減、試作費の削減など開発コストの低減が目的であることは言うまでもない。短期開発の例では出図からラインオフまで9ヶ月という事例も存在している。このような短期開発では、開発試作車はなし、公道での試験などもなしで、性能確認後はただちに工場での生産が開始されていると考えられる。
現在では開発段階の初期からモデルベース開発(シミュレーション)が多用され、また開発初期から部品メーカー、生産工場、営業販売部門での一体企画が行なわれるなど、合理化も推進され開発期間の短縮、無駄の排除が進んでいる。

その一方で、車両に求められる安全基準は時代とともに強化され、型式認証のために提出する法規に準じた安全に関わる実験項目は大幅に増大している。
そのため、認証のための安全に関する実験の項目も拡大し、衝突試験などに使用する実験車両(認証試作車)の台数は増加せざるをえないのである。だから開発のための試作車を削減する一方で、法規の適合性を確認する試験車両は増大するという矛盾が増大しているのだ。

また、衝突試験などでは1回毎にばらつきが生じるのも不思議ではない。そのため、複数回の試験を行ない平均値を採用するなども求められるが、複数回の試験を行なうためにはより多くの試験車両が必要になるというジレンマも生じてくる。

また、調査報告書の度々登場する、試験用の車両と実際に求められる車両との仕様に相違がある場合でも、試験に合格したように虚偽記載する例を多く見ることができる。


全面衝突試験におけるエアバッグの問題も、エアバッグ用のECUが試験の段階で調達できなかったために、タイマーによるエアバッグの作動を行なったとされ、問題のECUの入手まで試験を待つことができなかったのである。

このように見ると、何より重視されるのが開発期間で、販売開始日が決められてしまうと、その日程を変更することはできないようになっている。したがって、販売開始日から逆算して、余裕のある開発期間、開発スケジュールを組むことが合理的であるが、その一方で極限的な開発期間が求められており、こうした課題には根深いものだある。
つまり、トヨタの新興国向け車種の拡大、自社車種拡大など開発車種数が増大し、同時に求められる安全基準の試験項目が拡大しているにもかかわらず、安全法規の基準を確認する試験部門の人員は削減され、限られた試験用車両を使用し、一発で合格することが当然で、とにかく合格させることが求められていたわけである。そのため、再試験はなしで、試験車両や試験データの虚偽記載(174件中の140件)が多発したわけである。

■ダイハツの今後は?
ダイハツと同じトヨタの子会社であった日野自動車は、2022年3月にエンジンの燃費・排ガス試験での不正が発覚し、最終的に型式認証を取り消されるなど前代未聞の事件が発生した。
その結果、日野自動車の経営は厳しいと考えられ、親会社のトヨタはダイムラートラックと統合した持株会社を設立し、その傘下に100%子会社として日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの統合会社を設立することを決定した。
日野自動車は、この統合により非上場となり、現在50.1%を出資するトヨタは同社の親会社でなくなると予想されている。
ダイハツも今後は厳しい道のりが予想される。不正の発覚した全車種の再試験、国交省との話し合いで、型式認証は再度取り直しになるのか、どうか? こうした状況下で1000億円以上の赤字が予想され、経営が悪化することは不可避と見られている。
その意味で、トヨタの新興国小型車カンパニーとしての位置づけ、ダイハツ・ブランドの行方には不透明感が強くなってきている。
文・松本 晴比古/提供・AUTO PROVE
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