「丸亀製麺」「ゆで太郎」の成功はブランディングにあった

 富士そばのラインナップを見てみると、「かけそば」(390円)、「もりそば」(390円)のような基本メニューから「天ぷらそば」(540円)、「コロッケそば」(540円)、「カレーライス」(500円)、「かつ丼」(580円)というご飯物まで揃っている。店舗限定メニューもあり、新商品の開発に注力している印象はある。一方、富士そばの不振を見ると、「丸亀製麺」や「ゆで太郎」の成功がより際立ってくる。

「丸亀製麺の成功は、店内打ち立てのうどんと揚げたての天ぷらを自由にトッピング可能であるという、本場香川の讃岐うどんスタイルを提供できたことに尽きます。丸亀製麺のうどんは、コシが強めでエッジが効いた仕上がりとなっており、この味を求めて来店する客は少なくありません。自宅で市販のうどんを茹でても、丸亀製麺の味とはほど遠いですからね。また天ぷらはえび天ぷら、野菜天ぷら、かき揚げとバリエーション豊富でして、つい手に取りたくなってしまう楽しさが人気の秘訣となっています。

 さらに、丸亀製麺は商品開発力も優秀。なかでも、21年より発売中の『丸亀うどん弁当』のヒット、そして今年5月に発売しSNSでバズりをみせたことも記憶に新しい『丸亀シェイクうどん』のヒットは、丸亀の企画力、開発力の高さを物語る出来事でしょう。うどんという食べ物は、基本となるめん・つゆに、温かいか冷たいか、トッピングにはねぎか天かす、というように拡張性が低いものでした。ですが丸亀製麺は、うどんの持つポテンシャルを最大限に活かし、新しい食べ方を提案したことにより、ファン層を大きく広げることができたと評価できます」(同)

 丸亀製麺がうどんの可能性を広げたといえるが、そばチェーン店はどうだろうか。

「実は、ゆで太郎はそばという業態であるがゆえに、一度お客を失ったチェーン店なのです。ゆで太郎は、単価が競合よりもやや高めでして、安くて味がそれなりのチェーン店と、高級感・高クオリティを売りとする店との間で板挟みになってしまい、競争に負けてしまっていました。

 そこで、失った客数を戻すために、既存メニューを見つめ直すのではなく、まったく新しい業態を開拓することでゆで太郎は復活を果たします。それがもつ煮定食チェーンである『もつ次郎』です。もつ次郎を既存のゆで太郎店舗へと併設する形で導入し、競合他社が切り開けなかった『もつ煮とそば』という組み合わせを打ち出すことができました。新たな客層を獲得でき、他社とは違うブランディングに成功したといえるでしょう。以上のことを踏まえると、富士そばからは、丸亀とゆで太郎のようなイノベーション力、イメージ戦略がいまだに欠けていると断言できますね」(同)

セルフ式そばチェーンの暗い未来…このままでは終焉か?

 今後の富士そばが注力すべきことは何か。

「現状、富士そばのお客は、富士そばでごはんを食べたいのではなく、『富士そばが駅近くにあって便利だから食べている』という人が大半を占めています。ですから今後は、富士そばの味を愛してもらえるようなメニュー開発、抜本的なイメージ改革を進めていかないと、今後の業績アップは難しいでしょう。『安い、早い』といった従来のお客が持つイメージを『美味しい』に変えていく必要があるのです。ただしすぐに何とかなる問題ではないので、中長期的な視点を持ち、少しずつ理念を客に浸透させていくほかありません。

 加えて、富士そばは23~24時間営業の店舗が多いチェーン店である事情から、アイドルタイム(来店客数が少ない時間帯)が必ず発生します。主要客層であるサラリーマンは、朝食や昼食時に利用するので、具体的には昼下がりから夕食時までの時間や、終電後の時間にいかにお客を呼び込めるかが勝負となります。言い換えれば、サラリーマン以外の客層を獲得し、ブランドイメージを改めることができなければ、富士そば式のビジネスモデルは終焉を迎えるかもしれません」(同)

(取材・文=A4studio、重盛高雄/フードアナリスト)

提供元・Business Journal

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