セルフ式そばチェーンの代名詞「名代富士そば」の雲行きが怪しい。首都圏の駅前を中心に出店し、23~24時間営業の店舗が多い富士そばは、メニューの安さや提供スピードの早さから、老若男女問わず多くの人が訪れるチェーン店だ。1966年に「そば清」としてスタートした同チェーンは、2013年に国内100店舗を達成し、最盛期には130店舗以上にまで拡大した。しかし、20年以降は閉店が相次ぎ、公式HPの情報によれば、23年8月16日現在で店舗数が104にまで減少。コロナ禍の影響力が強く、思うように客数確保を果たせなかったことが要因だと考えられる。

 忙しいときでも手短にそばを食べられることが魅力だった富士そばが失速した要因とは。フードアナリスト・重盛高雄氏に解説してもらった。

コロナ禍で気づいた…わざわざ「富士そば」に行く必要なし?

 富士そばの営業方針的に客数減は避けられなかったと重盛氏は語る。

「富士そばはビジネス街近くの駅前に多くの店を構えている都合上、駅利用者の数に売上を左右されるビジネスモデルとなっています。セルフ式そばチェーン店は価格の安さ、提供の速さを売りに、休憩時間の限られているビジネスパーソンをメインターゲットに据える業態です。売上アップのためには回転率を上げ、とにかく客数を稼がなくてはいけません。したがって、必然的にビジネスパーソンで溢れかえる駅前への出店は必要不可欠となります。そうしてコロナ禍前はまだ客数を確保できていたのですが、コロナ禍に入った途端、外出自粛がアナウンスされ、リモートワークが急速に普及したこともあり、富士そばのような営業スタイルは売上を維持することが難しくなりました」(重盛氏)

 客離れを引き起こした原因はそれだけでなく、富士そばのブランド力の低さも一因だという。

「コロナ禍以降、飲食店が相次いで休業するようになったなかで、テイクアウトや宅配サービスを利用する人が増えましたが、同時に消費者の間では飲食店で本当に食べるべきものは何かについて、改めて考え直す機運が高まりました。そうした動きを顧みると、富士そばで食べる一杯あたりの金額を考えたとき、ほかの飲食店でお金を使ったほうが満足できる、という視点が広がったのだと考えられます。

 富士そばは『速く、安く』を地で行く営業方針となっていますので、競合他社に比べるとメニューのクオリティは若干低め。おまけに強みであるはずの24時間営業であることが要因となり、メンテナンスの時間が十分に確保できていません。たとえば、揚げ物用の油が来店する時間によっては劣化していたり、お米が炊き上がってから時間が経過してパサパサになっていたりと、品質にバラつきがみられる店舗も少なくありません。もちろん全部の店舗に当てはまることではありませんが、24時間営業という性質上、粗い部分が見えてくるのは構造的に仕方のないことです」(同)

 また、極論でいえば、富士そばで食べられるクオリティのそばであれば、自宅でも作れそうだ。

「そばは市販の商品を茹でれば、自宅でも簡単に食べることができてしまいます。リモートワークが当たり前になった現在では、中食や内食をする方も増えましたので、富士そばのように自宅で作ることができるものをわざわざお金を出して外食で食べる必要がない、そう判断する消費者が増えたのでしょう」(同)