スチームトースターの販売台数は100万台を超えた
「窯で焼き立てパンの味を再現する」。スチームトースター「BALMUDA The Toaster」は、そんなうたい文句でヒットした。上部にある給水口に少量の水を入れ、水蒸気を使って温度を制御する独自の技術を採用。パンの表面だけを焼き、パンの中に含まれる水分はそのまま残すことで、表面はさっくりしていながら、中はふっくらした食感を残すトーストに仕上がる。
店頭価格は2万円超で通常のトースターの4~5倍程度と高額だ。2015年の発売以来、着実に販売台数を伸ばしてきた。新型コロナウイルスの巣ごもり需要を追い風に4月から8月にかけて月別で過去最高の販売台数を記録。累計販売台数は世界で100万台を超えた。
バルミューダは元ミュージシャンの寺尾社長が設立した。1973年5月、茨城県龍ヶ崎市の洋ラン栽培農家に生まれた。17歳で高校を中退、スペイン、イタリア、モロッコなど地中海沿岸の各国を約1年かけて放浪。帰国後、約10年間、音楽活動に携わる。大手レコード会社と契約したがCDを1枚も出せずに断念した。
2001年、バンド解散後、ものづくりの道を志す。町工場で働きながら独学で設計と製造技術を学んだ。03年、有限会社バルミューダデザインを設立。11年にバルミューダ株式会社へ社名を変更した。
開発思想は一風変わっている。大事にするのは「自分が欲しいかどうか」だ。リーマン・ショックで倒産の危機に陥ったが、10年に発売した二重構造の扇風機「グリーンファン」で家電業界の注目を集めた。首振りの範囲を150度の超広角に広げて空気をゆっくり移動させることによって、自然界のような風を再現した。
そして、15年に発売した「BALMUDA The Toaster」が大ヒット。家電量販店の調理家電売り場では、予約しないと手に入らない超人気商品に化け、15年度グッドデザイン賞金賞を受賞した。
音楽に合わせ室内の光の量などを調節するワイヤレススピーカーや、ヘッドを360度回転できる掃除機などユニークな商品の品揃えを増やした。ポータブルLED(発光ダイオード)ランタンなども世に出している。空気清浄機などが韓国を中心に人気で、海外売上高比率は3割に達する。
2020年12月期業績予想の売上高は前期比13.7%増の123.3億円、 純利益は30.6%増の8.2億円と増収増益の見通し。20年4月から北米で販売を開始した。現在100人あまりの社員の約半数が開発要員だが、新製品を出し続けるには人員を増やす必要がある。上場して株式市場から資金を調達する狙いのひとつが人材の確保にある。