女子リーグとキーパーソンとの出会い
WSLが開幕した2011年4月から昨2023年6月までの期間は、イングランドの女子サッカー界にとって重要な時期となった。特にローリー氏がFA(フットボール・アソシエーション)に参加した2016年は、激動の中間地点だったため貴重な経験を多く積んだという。
当時のFA内部では部門が細分化され、女子サッカー繁栄に熱心な仲間も多く運営の構造自体は悪くなかった。一方、予算やプライオリティは決して良好とは言えない状況だったらしい。そんな状況下で女子サッカー界を後押しした人物が、スー・キャンベル氏だ。同氏は2016年3月にFAに参加し、2018年にはディレクターとして女子サッカーの草の根活動からプロのトップリーグまでを幅広く担当。多大な功績を残している人物だ。ローリー氏いわく、同氏の存在があったからこそ英国女子サッカーが発展し現在があるという。
キャンベル氏が最も大切にしている軸は「女子サッカーの可能性」だ。まずは自分自身がその可能性を信じること。そしてFA内の仲間たちを巻き込みながら、女子サッカーの戦略を明確にわかりやすくしていくこと。ひとくちに戦略と言っても、単にリーグやクラブだけを特定せず、草の根活動や指導者、審判、ファンやサポーターも含め、女子サッカーに関わる全てのフィールドを視野に入れた戦略だ。
大胆な3年計画
キャンベル氏が打ち出した具体的な目標は「3年間で女子サッカー全体の様々なことを2倍にする」だった。ローリー氏が所属するマーケティング部門では、WSLの観客数を2倍にすることを課題として掲げた。そこで取り組んだのが、リーグのシーズンを夏から冬へと大胆に変更するというものだった。この取り組みが生んだいくつかの利点の中でも特筆すべきは、他のカップ戦やUEFA女子チャンピオンズリーグなどの大会とシーズンが合うようになったこと。そしてWSL以外の国際大会に出場する選手たちが、準備期間をしっかり確保できるようになったことが挙げられる。選手のコンディションを良好に保つことが出来れば、良い試合が生まれ、結果的に観客の増員にも繋がっていく好循環が期待できる。
その後2018年から2019年にかけては、WSLの構造的な変更を実施。特に「リーグのプロ化」は大規模な変化となった。在籍選手たちは、サッカー業務を1週間に最低16時間行う条件のフルタイム契約となり、リーグ自体の商業的な価値も上がりはじめ、2019年にはついに英国の国際金融機関『バークレイズ』がスポンサーとして正式契約を結んだ。さらに、同年開催のFIFA女子ワールドカップ(W杯)フランス大会でイングランド代表チームが準決勝まで勝ち進んだこともあり、英国内では徐々に女子サッカーに追い風が吹き始める。
WSLに所属する各クラブでは、女子チームが男子チームの利用するメインスタジアムで試合をすることも多くなり、結果的に2万~3万人と万単位の観客数を生み出すことに成功した。平均観客動員数が1000人以下だった2016年と比較すると、キャンベル氏が目標とした「2倍」を遥かに超えた人数を達成するまでに成長した。