海外で10万人が支持するIUB、ピル後進国の日本でリープフロッグとなるか
日本では、生理用品のタンポン挿入でさえネガティブなイメージがあって使用率が低く、子宮に挿入するIUDやIUSにいたっては使用率0.3%だ。そんな日本で「IUB Ballerine」をはじめとする同社の製品シリーズが受け入れられると思うかと尋ねると、Leshem氏は自信たっぷりに「もちろん」と応えた。
「このデザインを女性に見せると、自分の身体のためによりデリケートに作られていると直感的に理解してくれるんですよ。ユーザーを対象に調査したところ、最も選ばれたのはわが社の製品という結果が得られました」
新機軸デザインを打ち出したIUBは、既存のスティックタイプと異なり尖った先端や折り畳みが必要なアームもなく、プラスチックも含まない。デバイスの挿入処置を行うのは医師だが、従来製品より簡単かつ安全に挿入でき、患者の苦痛が少ないIUBシリーズは医師からも歓迎されているという。「もちろん、挿入自体は楽しい経験ではありませんが、挿入時のツールもとても細いのでこれまでのような苦痛は間違いなくありません」
製品について女性たちユーザーに対して周知・提案するうえで、医師の果たす役割の大きさについて強調するLeshem氏はさらに、ユーザーに新たな選択肢を周知するうえでメディアの存在も重要だと語る。「こうした選択肢があることをメディアの皆さんが女性たちに知らしめてくれるのは、本当に素晴らしいことです。『このボール、新聞・ネットの記事で読んだことがある』となれば、この製品について医師に尋ねてくれるはずですから。だから、こうした取材と報道は本当に重要なんです」

IUBをおさめた容器は指輪のケースそのもの。自社製品を手に笑顔のLeshem氏
リプロダクティブヘルス/ライツに関する情報の重要性
確かに、性教育に課題がある日本でこうした情報は極めて貴重だ。冒頭にも書いたとおり、日本ではリプロダクティブヘルス分野での選択肢がかなり限られている。生理用品であればナプキンユーザーが約9割と圧倒的多数。避妊方法については、不確実性が高く男性主体であるコンドームを使用する人が前年代で最も多く全体で約50%。しかも“腟外射精”というあり得ない回答が約17%(20代では約25%、30代と40代でも20%台)で2位というありさまなのだ。
また、「ピル=避妊目的」という思い込みも強い。実際には月経困難症に処方されることもあり、生理不順や生理痛の改善が期待できる医薬品だ。ピルやIUSなどで月経(排卵)をコントロールすれば、旅行や出張、受験やスポーツの試合といった大切なイベントに月経が重なって十分に楽しめない・実力を発揮できないといった事態も避けられる。
ピルで月経を抑制・操作するのは「不自然」だという感じ方もあるが、実は「月経は不要」であることは近年医学的に常識となっている。むしろ、妊娠の予定がないのに毎月生理を迎えていると子宮にも卵巣にも負担がかかってしまう。卵子は質のよいものから使われるので、「もったいない」状態でもあるのだ。平均寿命の延長と出産回数の減少によって、現代日本での生涯月経回数は明治時代の約9倍とも言われている。「自然」や「不自然」とはどういう状態なのか、考えさせられるのではないだろうか。

研究開発中の「SEAD」は異常出血などに効果があるIUS。Image Credits:OCON Therapeutics
将来的にはBallerineだけでなくSEADやPRIMAも日本で展開され、日本ユーザーのQOLを改善してくれることを期待したい。
<Keren Leshemさんプロフィール>
医療デバイスおよび製薬業界における20年以上の経験を持つ。イノベーティブなスタートアップのマネジメント、事業戦略、商品化などを専門とする。Forbes誌「女性の健康の未来を形作る3人の女性」をはじめ、各種媒体の「注目の女性CEO」などにも多数選出されている。
(取材・文:Techable編集部)