2023年は、パーキンソン病研究にとって飛躍の年となった。4月にはマイケル・J・フォックス・パーキンソン病リサーチ財団がこの難病のバイオマーカーを発見したと発表。脳脊髄液中の「α-シヌクレイン」という異常タンパク質を測定することで、初期症状の正確な診断が可能であるとした。8月末にはドイツ製薬大手バイエルが初期の臨床試験で行った幹細胞治療によって症状緩和の兆候を確認したと発表。年末には日本製薬大手の住友ファーマなども人のiPS細胞から作製した神経細胞をパーキンソン病の患者の脳へ移植する臨床試験をアメリカで開始した旨を発表している。

パーキンソン病患者に対する眼球運動測定の有効性を確認

同年9月には、パーキンソン病における横断的な臨床結果についてイスラエルのスタートアップNeuraLight社も発表を行っている。診断支援や病状進行のモニタリングを行ううえで、パーキンソン病に対する同社プラットフォームの有効性が研究によって確認されたのだ。

NeuraLight社公式サイトより引用

パーキンソン病患者に異常な眼球運動が見られることは数十年前から認識されており、眼球測定法(OM)が臨床評価および診断のための貴重なツールとして提案されていた。しかし、OMと臨床評価ツール、疾患の重症度の相関関係については、最近まで正確には把握できていなかった。

昨年行われた研究では症状の度合いが異なるパーキンソン病患者215人を調査し、NeuraLight社の技術による結果と国際運動障害学会によるUPDRS(統一パーキンソン病評価スケール)を比較。パーキンソン病患者と健康な人とのOMだけでなく、重度患者とそれ以外の患者のOMに差異があることを確認した。パーキンソン病の診断および病状進行の観察にOMが有効であると証明されたのである。

スマホで撮影した顔面の映像から眼球運動測定データを抽出

NeuraLight社公式サイトより引用

NeuraLight社は、AIと機械学習活用により神経学の臨床開発および診断、精密医療を変革するイスラエルのスタートアップ企業だ。眼球測定データを使用して AI主導のプラットフォームを構築、世界中で10億人以上いるという神経疾患患者に精密なケアを提供している。

眼球測定データの抽出には患者の顔面の映像を用いる。この映像は専門的な医療用カメラなどではなく、ごく一般的なウェブカメラやスマートホンのカメラで撮影したもので構わない。

カメラで患者の顔面の映像を撮影すると、AI駆動プラットフォームがその映像から微細な眼球測定数値をすべて抽出し、客観的かつ高精細なデジタルマーカーが提供される。これらのマーカーを現在使用されている臨床評価項目と組み合わせることで、たとえ遠隔であっても患者の神経学的状態をより正確に把握できるという技術だ。

神経疾患では診断を決定するうえで客観的検査や基準が存在せず、診断ツールのばらつきが大きいため診断までに時間がかかっていた。その結果として誤診率の増加や患者ケアの低下、不適切な治療、医薬品開発の障害につながっている。同社のプラットフォームはこうした現状を打破するものである。