本記事は2021年の記事の再掲です。

■人肉の栄養学的評価
2018年のイグノーベル栄養学賞を受賞した研究はジェームズ・コール(James Cole)の人肉を食べた時の栄養学的評価に関する研究でした。
この研究では人肉は他のほとんどの肉よりも著しく低カロリーであることを突き止め、人肉を食べて栄養を賄って生きることは旧石器時代において非現実的であると結論しています。
原始人が現代で肉体労働を行っている成人男性と同等に1日1人あたり3000kcalを必要とした場合、体重約66kgの成人男性の可食部から取れるカロリーを85,534kcalと推定するなら、保存や調理の悪さを考慮して端数切捨てで約28人の1日分に相当します。
つまり、80人の集団がいたら最低でも毎日3人は食べないと死ぬ計算になるので、この集団が1年間に消費する人数は、原始時代は保存技術が無かった効率の悪さから、最低でも1095人以上になります。
これが野生のイノシシ(体重135kg)なら可食部81kgで100gあたり400kcalが得られるので一頭で324,000kcalになり108人の1日分に相当します。
野生の牛なら体重300kgなら可食部180kgで100gあたり204kcalが得られるので一頭で367,200kcalになり122人の1日分に相当します。肥育されて脂肪の乗った家畜の牛なら100gあたり400kcalとみなせますが、野生の牛は脂肪があまりない想定で計算しています。

牛やイノシシなら年間300頭も取れたら80人程度の集団は十分に食べていけます。もう少し近代になって牧畜が始まれば、小さな村一つなら年間300頭の家畜を太らせることができれば十分に食べていけることを意味します。これは増える元の母数となる家畜を倍の600~700頭も保有していれば十分に達成できる現実的な数字です。
家畜の肉以外にも乳や植物を採取してカロリーを補うことができれば家畜の数はもっと少なくても生きていけます。
これに比べて80人の集団が自分達と同等の人間を毎年千人以上も殺して食べることは現実的な数字ではありません。野生動物と違って人間を食べようとすると自分達と同等の能力と武器を持って殺しに来るので、普通に考えて人食い人種は早い段階で人を食べない人種に殺されて絶滅します。
人肉を食べるのはあくまでも主食が致命的に不足している状況下での副食にすぎません。集団内部で共食いが発生したと仮定しても、人肉以外に食べる物がなければすぐに食べられる人間が居なくなって全滅します。
不死身で無敵に強かったとしても年間千人以上も食べる必要があるなら、人口増加率が年2%の水準で毎年増えた分を食べたとして人間を生産する母体となる総人口は50倍の5万人も必要になります。
不死身の吸血鬼が人間を食べる場合でも吸血鬼の消費カロリーが人間と同等なら吸血鬼80人を養うのに5万人の人間が必要になります。これでは、すぐに食べ物が手に入らなくなって餓死するので人間以外の食べ物を受け付けない怪物は現実には存在できません。