サービス残業が続くなど職場の労働環境が悪く、改善を求めて労働基準監督署などに訴えようと思ったことはあるだろうか。未払い報酬を求めることは労働者として当然の権利だが、それが原因で会社自体が倒産してしまうケースがあるという。少し前には、ネット上に「労基署にチクったらとんでもないことになって失業した」という内容が投稿され、一部で話題に。この投稿者によれば、勤務先の残業代未払いを是正させるために労基署に通報したところ、適正な残業代が支払われるようになったが、経営が圧迫されて倒産。結果的に失業したという経緯が綴られている。

 会社員として働く者にとっては本末転倒なエピソードに思えるが、実際に倒産・失業まで至る事態はあるものなのか。社会保険労務士法人ALLROUND渋谷の代表を務める、社会保険労務士の中健次氏に聞いた。

残業代をまったく払ってない会社も

「令和3年度の数字ですが、残業など割増賃金不払いで労基署から監督指導を受け、100万円以上を支払った企業は1069社あります。そのうち1000万円以上の支払いがあったのが115社で、割り増し賃金の平均額は1社当たり609万円となります。賃金請求権は現在は3年遡れるので、単月でみたら大したことのない金額だとしても、3年分を一度に処理するとなると高額になってしまうことが多く、払いきれない場合、倒産や廃業することも起こり得ると思います」(中氏)

 このような事態になってしまう背景には、サービス残業ありきの企業体制だったり、労務違反をしないと利益を上げられない会社が多いということもありそうだ。

「そもそも残業というシステムがなく、残業代をまったく払ってない会社というのもいまだにあります。また、固定残業代を払うだけで残業管理をしておらず、改めて調査したところ見込み時間を超えてしまっていたとか、割り増し賃金の時間単価の計算の仕方を間違っているなど、意図せずに労務違反をしてしまっている会社は多いです」(同)

 業種によっては残業代の設定が難しく、勤怠管理が疎かになってしまいがちだという。

「一部の業界は通常の残業代も固定残業代もなく、社員をだらだらと働かせてしまう会社が多い印象です。原則的に1日8時間、週40時間という労働基準法の基準がありますが、遵守の意識というのを会社側も持ってないし、働いている本人たちも意識していなかったりする。いわゆるBtoCの事業だと、どうしても目の前の顧客を優先した対応になり、基準となる労働時間を守るのが難しい」(同)