米国ネット証券大手のチャールズ・シュワブは「購入時に手数料のある投資信託」の販売を打ち切った。取引頻度が増加することで、顧客の支払う手数料増加がアドバイザーの利益になる構造を好ましく思わない「顧客志向」の考えが根底にありそうだ。最近の米国での運用スタイルを紹介しよう。

米国:投資家と利益相反が少ないチャネルが席捲

「チャールズ・シュワブモデル」…取引手数料中心の従来ビジネスモデルから、アドバイスを対価とするチャネルの取り込みに移行した、同社の成長には目を見張るものがある。顧客の預かり資産は2014年には2兆4000億ドルとなり、メリルリンチ・ウエルス・マネジメントを上回った。

米国では、取引時の販売手数料を目的としているアドバイザーは敬遠される傾向にある。カギはETFを中心とした低コストの運用商品の活用だ。ETFの「販売時の手数料がゼロ」(証券の売買手数料は必要)、「信託報酬が極めて低い」(0.05%といった0.1%を切る水準のものまである)という低コストのメリットは投資家の運用コストの引き下げに寄与している。

過去には高いコストの投資信託を勧めるアドバイザーが多く存在した。しかし「賢い投資家」は、アドバイザーによる投資商品の提案が自分たち(顧客)のためでなく、アドバイザーへの収入にリンクしている事実に気づいた。アドバイザーは、「取引手数料中心」ではなく、「アドバイスを対価」とする方法を選択し、顧客の資産形成に役立つことで「顧客との利益相反が少なくなる」事実に気づかされた。

日本:金融知識不足で運用コスト鈍感

「投資している投資信託の運用コストはいくらですか?」

日本の投資家は自身の運用コストに鈍感だ。上記のように質問した場合、「販売時の手数料」、「年間の信託報酬」、「解約時のコスト」を正しく認識していることはレアケースで、「担当者まかせ」になっていることが極めて多い。

投資している商品の選択理由について質問しても、ほぼ明確な理由はなく、「仲の良い金融機関の営業員に勧められたから」「銀行の商品なら安心だと思った」といった曖昧な理由だ。それだから、購入時に3.24%、信託報酬約1.8%の商品を知らずのうちに買わされている。初年度の投資コストが5%を超えている事実を認識していない投資家が多い。

「高い信託報酬=高リターン」なのか?

市場平均を上回る運用成績を目指す「アクティブ運用」型の投信の過去の成績は、「おおむね、1年で約6割、10年で約7割、20年で約8割が市場平均に負けている」と敗者のゲームの著者で世界的に著名な投資コンサルタントのチャールズ・エリス氏は述べていた。投資家のリターン=「運用成果-投資コスト」と大まかに考えれば、高い信託報酬を払えば、投資家のリターンは減少する。投資コストに見合った高いパフォーマンスは本当に期待できるかどうか、判断が必要な所だ。

米国:資産残高連動型報酬とRIA

賢い投資家たちは、低コストのETFなどを使った運用がコスト面で有利であり、結果として投資家リターンに繋がりうることを理解した。

しかし、どの商品を選択すべきかがわからない場合には「資産残高連動型」のアドバイザーからアドバイスを得る選択肢がある。米国では「RIA」と呼ばれる投資アドバイザーが広く認知され活躍している(Registered Investment Adviser、登録を受けた投資アドバイザー:投資助言業者)。米国のRIAの数は2万6000とも言われ、その95%のRIAが「資産残高連動型報酬」を採用している。

販売手数料が高い場合にもRIAはその高い手数料を受け取ることが無い。RIAにとって重要なのは、顧客の契約資産残高の増加であり、そのためには高い手数料の商品はむしろ顧客の資産を減らす形になる可能性がある。米国の個人投資家の資産形成において、RIAなどの対面チャネルの貢献があったことは周知の事実となっている。

日本の富裕層が注目する「海外ETF」

リーマンショック後の2008年9月から2009年3月の間に、日本の投資家が購入・契約した金融商品を調査した野村総合研究所のアンケートによると、金融資産5億円超の「超富裕層」は海外ETFを挙げていた。

しかしその他の階層の投資家は海外、国内ともにETFを挙げていない。大口の資産運用を行う富裕層には様々な情報が集まり、結果として金融リテラシーが高まっていた。海外ETFは富裕層に選ばれていた。透明性、流動性、コストの面で投資対象に値するという判断をされたということだ。

ETFを志向するプライベート・バンカー

海外の事例だが、A氏は米系証券会社で1日12時間、推奨銘柄案内の電話をかけ続けた。手数料は稼いだが、顧客はそれほど儲かっていないことに気付く。A氏はETFを活用し、顧客の特性に合わせた資産配分を実施。顧客のリターンが向上し、2012年にはスイスの著名プライベート・バンクでトップのフィナンシャル・アドバイザーとなった。

かたやETFの優位性は本音ベースでは理解しつつも、ノルマ達成のために高い手数料の商品を販売している「プライベート・バンク」を名乗る金融機関が多く存在しているのも事実だ。販売商品は窓口と同じでありながら「立派な応接室」でプライベートバンキングを名乗っている金融機関も日本にはある。どちらが顧客サイドに立っているかは言うまでもないだろう。

高い手数料を顧客に払わせることを目的としたアドバイザーは米国では敬遠されている。米国の投資家の「高い金融リテラシー」と「アドバイスを対価」とする制度が顧客の資産形成に貢献してきた事実を知り、日本人も賢い投資家になって頂きたい。

文・安東隆司(RIA JAPAN おカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー)/ZUU online

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