塩そのものの価値の再定義、自社製品の差別化および消費者教育
当時、塩にこだわりや関心を持つ人は極めて少ない状況だった。つまり、「どの塩も同じ」と多くの人は捉えていた。こうした状況に対して、伯方塩業は塩の製法や風味の違いをしっかりと伝え、一般消費者の塩へのこだわりや関心を高めることに注力した。
具体的には、自然塩存続運動を始めた創業者たちの熱い思い、自社のこだわりの製法などを丁寧に伝えていった。例えば、料理学校の先生に「伯方の塩」を使ってもらい(お吸い物などでは塩の味の違いが際立つ)、味の良さを認めた先生から生徒へ口コミが広がっていった。
また、発売当初は価格差により、一般のスーパーなどでの拡販が難しく、自然食品や健康食品の店など、こだわりを持つ消費者が集まる場への販売促進を重視した。その後、実際に消費した人たちから「伯方の塩は高価格ながら美味しい」といった口コミが広がっていった。一般のスーパーに「伯方の塩を取り扱ってほしい」とった声を寄せる消費者も現れ、商売が軌道に乗ってきた。
さらに、転機になったのは、あまりに有名な「伯方の塩」テレビCMである。売上が順調に拡大し、創業から14年が経った1987年、テレビCMを展開することになった。しかしながら、大きな予算があったわけではなく、「とにかく安く作って」と広告代理店に依頼し、放映エリアも地元である愛媛県から始め、中国地方、関西地方など徐々に拡大していった。テレビCMの効果は絶大で、見本市や商談会などにおいて、子供が前を通る時には「は・か・た・の・しお」という歌声が聞こえ、小売や卸売業者への認知度も格段に向上した。