2019年に始まった働き方改革によって、長時間労働の是正や柔軟な働き方の実現など、雇用する側、勤務する側、双方の意識が大きく変化し、労働時間は1分単位での計算が当たり前となり、24時間戦う“企業戦士”が称賛された時代は幻になったとも思える。

 さらに2024年4月からは、医師に関しても時間外労働の上限規制が適用となり、「医師の働き方改革」が本格的にスタートする。

 この流れに合わせるかのように、昨今の医学界では若手医師の意識は変化しているようだ。それを裏付けているのが、日本外科学会が公式サイト上で発表した「外科医希望者の伸び悩みについての再考」であり、『外科希望者の減少理由として、外科医は専門医資格を取得するのに時間がかかり生涯労働期間が短い事、勤務時間が長い事(ワークライフバランスが十分に考慮されていない事)、給与が勤務量に見合っていない事、医療訴訟のリスクが高い事、女性医師への配慮が乏しい事などが挙げられています』と述べている。

 また近年、外科医が激減している一方で、精神科医が激増していると話題になっている。

 SNSでは、その理由として「高額な設備が不要で、机と椅子程度があれば開業できる。すぐに設備投資分が回収できるから」との声もあるが、果たして現場の医師はどう捉えているのだろうか。予防医療研究協会理事長で精神科医の髙木希奈医師に聞いた。

精神科医が増えているという誤解

「SNSで、精神科クリニックが増えていることが話題になっていたようですが、病院とクリニックでは少し違いがあります。確かにクリニックの場合、開業にあたって当然、施設基準などはありますが、机と椅子さえあればできるというのは、あながち間違ってはいません」(髙木医師)

 これに対し外科で開業する場合、高額な検査機器や手術室などを揃えれば1億円以上必要となることもある。外科医として開業するまでには、専門医の資格を取り、腕も磨く必要があり、40~50代になってからの開業がほとんどだ。さらに、1億円を超える設備投資は、医者とはいえハードルが高く、開業資金が低く抑えられる精神科クリニックが増えるのも納得である。

 また、外科医が開業するまでは技術の習得が必要であるが、精神科の場合は、医師であればすぐにでも開業できるというのだ。

「精神科クリニックの開業は、専門医や指定医の資格を持たずともできます。極端にいえば、研修医が終わってすぐにでも開業することは可能です。最近では20代で開業する先生もいますが、大丈夫なのかな、と感じます。精神科の場合、診断も治療もはっきりと目に見えるものではありません。内科や外科のように検査をして数値で見せることもなく、治療によって腫瘍や傷がなくなったとわかるわけでもないため、評価に基準がないともいえます。だからこそ、精神科医として十分な勉強と経験が必要だと思います」(同)