戦に勝つためには戦闘以外にもさまざまな策略が講じられるが、その中にはオカルティックな超常現象を利用した作戦もあった。米軍はフィリピンとベトナムで実に奇妙な心理戦を仕掛けていたのだ――。
日本に対して計画された「ファンタジア作戦」
日本の真珠湾攻撃の後、否応なく第二次世界大戦に参戦したアメリカだが、敵の戦力分析を進めるほどに日本やドイツの手強さを理解せざるを得なかった。軍事作戦以外にもあらゆる策を尽くさねば勝てないことを痛感したアメリカ当局は米中央情報局(CIA)の前身となる戦略情報局(OSS)を設立した。
本格的な対日作戦を練るべく、OSSが招聘したのは心理戦戦略家のエド・サリンジャーであった。
サリンジャーは日本でしばらく過ごしたことがあり、日本の言語、習慣、伝統に精通していた。彼は日本にはさまざまな幽霊、霊魂、悪霊に対する言い伝えがあることを知っており、これらの霊的な超常現象を活用した「ファンタジア作戦」を立案した。
サリンジャーは特に日本のキツネに対する畏怖に着目し、“狐火”を再現した燐光ガスで光りながら浮かぶ風船やキツネの鳴き声を再現するホイッスルを考案したり、蛍光塗料を塗って不気味に光るキツネを野に放つアイデアなどが検討された。

この“蛍光キツネ”の効力はまずはアメリカ国内で検証され、終戦間際だった1945年の夏にワシントンD.C.のロッククリークパークに30匹の“蛍光キツネ”を放ったのだ。
これは功を奏したようで、人々は予想通り徘徊する不気味に光るキツネに怯え、「飛び跳ねる幽霊のような動物の姿を突然見てショックと恐怖に襲われた住民は、暗い奥地の建物から逃げ出した」と報告されている。
その後まもなく終戦を迎えたことでこの“蛍光キツネ”が日本に放たれることはなかったが、その後も当局は超常現象の信仰を兵器化するというさらに奇抜なアイデアを継続的に進めたのだった。
第二次世界大戦直後、アメリカは日本から奪還したフィリピンに駐留を続けたが、国内ではフク団(フクバラハップ)という反政府武装組織が各地で反乱を起こしていた。
米軍はフク団の鎮圧に協力することになったのだが、ここでも超常現象を活用した心理戦が実施されることになったのだ。
フィリピンではアスワン(aswang)と呼ばれる女吸血鬼の伝説があり、昼間は人の姿をしているが夜になると怪物の姿に変身して人間を襲い血を吸って殺すと信じられていた。

米軍はフク団の支配地域にアスワンが潜んでいるという噂を広めて村人たちを怖がらせ、間接的にフク団に伝えたのだった。
特別に編成された特殊部隊がフク団がよく通る小道に隠れて夜間に待ち伏せをし、フク団のパトロール隊のうちの1人を気づかれないように拘束して殺害した。
部隊は遺体の首に吸血鬼が噛みついたかのような2つの穴を開け、血を抜いてから小道に横たわらせたのだ。
再びパトロールにやってきたフク団の者たちは仲間の遺体を見てこれはアスワンの仕業であると信じ、実際にその地域からフク団はいなくなったのである。