赤字が続き厳しい経営状態の楽天グループ(G)。1月10日には、2023年12月期連結業績で約700億円の繰延税金資産の取り崩しにかかる法人所得税費用の計上と、完全子会社化した楽天西友ネットスーパーに関する減損損失約160億円の計上を行うと発表。同社の先行きを不安視する声も広まっているが、今回の会計処理をどうみればよいのか。専門家の見解を交え追ってみたい。

 楽天Gの直近の2023年第3四半期(1~9月期)連結決算(国際会計基準)は最終損益が2084億円の赤字。同四半期の赤字は5年連続であり、赤字の要因である携帯電話事業の営業損益は2662億円の赤字。前年同期の3714億円の赤字から赤字幅は縮小したものの、携帯電話事業がEC事業と金融事業の利益を食いつぶす構図は続く。

 楽天Gは20年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始して以降、同事業は赤字が続いている。6月に始まった「最強プラン」の影響もあり、回線契約数は増加し同期の契約数は551万回線(MNO回線とMVNO回線の合計)となり、前年同期比で13%増加。単月黒字化に必要な契約数とする800万~1000万契約の達成時期について24年末とし、通期黒字化の達成については25年をメドとするとした。

金融子会社をめぐる動き

 楽天Gはこれまで携帯電話事業の設備投資に1兆円以上を投下し、その資金の大半を社債発行で賄ってきたが、24~25年には総額8000億円の社債償還が控えており、資金繰り悪化への懸念も浮上。楽天Gは、さまざまな手を打っている。まず、23年7月には楽天証券の持ち株会社、楽天証券ホールディングス(HD)の新規上場を東京証券取引所に申請。だが、競合するSBI証券が日本株の売買手数料をゼロにすると同年8月に決定したことを受け、楽天証券も手数料をゼロにすると決定。売買手数料収入が減るため上場が難しくなり、楽天Gは上場の代わりに楽天証券株を、みずほ証券に売却する方針に転換。楽天Gは楽天証券株の約3割を、みずほ証券に売却する。

 昨年12月には、傘下の楽天銀行の売り出し株式の売却が完了し、約600億円を調達(楽天銀行株の保有比率は63%から49%に低下)。このほか、楽天Gの成長の源ともされる楽天ポイントサービスに関係する楽天ペイメントを傘下に持つ楽天カードを上場させるとの観測も流れている。

「楽天カードの傘下に楽天ペイ事業と楽天ポイント事業を集約するという機構改革の発表は、楽天の株主にとっては本当に悪いニュースで、楽天カードの上場計画が水面下で進んでいることを示しています。三木谷(浩史)社長が『柔軟に考えていく』と発言しているのは、その計画を受け入れ始めたという意味だと私は捉えました。すでに上場した楽天銀行や、上場計画が進んでいる楽天証券と違い、楽天カードと楽天ポイント、そして将来性があるキャッシュレスの楽天ペイは楽天グループのビジネスモデルの中核を担う機能です。

 この新しい楽天カードはグループにとって楽天市場と二本柱になる収益事業です。なかでも楽天ポイントを楽天カードが握るということは、これまでのように楽天市場の発展のためにポイント事業を戦略的に活用することが難しくなります。そう考えると今回の機構改革は楽天グループにデメリットしかないのですが、重要なことは、なぜそれを実行したのかということです。

 理由は間違いなく資金繰りです。すでに金融機関からこれ以上お金を貸せないというメッセージを突き付けられているのでしょう。そうなると一番儲かるビジネスを切り売りするしかなくなります。今回、楽天カードに収益性と成長性どちらも機能を集約したことは、その上場益で楽天Gの有利子負債負担を軽減するという後ろ向きのメリットを追った決断であり、それは本質的には楽天Gにとっては前向きなメリットとはいえないのです」(鈴木貴博氏/百年コンサルティング代表取締役/23年11月10日付当サイト記事より)