日産自動車で「お家芸」とも呼べる経営陣の権力争いが再び繰り広げられている。ナンバー2だったアシュワニ・グプタCOO(最高執行責任者)が退任し、後任は置かずに内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)が権力を一手に掌握することが決まった。ただ、一連の経営陣のゴタゴタは、取締役会や社内に大きなしこりを残すかたちとなった。権力闘争に勝ち残った内田社長の進む道は平たんではない。

 事が表面化したのは5月12日。日産は6月開催予定の定時株主総会で付議する取締役候補者を発表したが、ここにグプタ氏の名前がなく、取締役の退任が発表された。日産は退任の理由を明らかにせず、円満な退社でないことは明らかだった。インド人のグプタ氏はホンダのインド子会社などを経てルノーに入社し、小型商用車のアライアンスなどを担当して2019年4月に三菱自動車のCOOに就任した。しかし、日産トップが報酬に関する不正の発覚で辞任すると、指名委員会で内田氏、プロパーの関潤氏とともに、後任の経営トップ候補として名前が挙がった。結果的に同年12月に内田氏が社長兼CEOとなり、グプタ氏がCOO、関氏が副COOという体制が発足。3人によるトロイカ体制で経営していくことが決まった。

 ところがナンバー3に置かれた関氏が反発して翌月には辞任し、日本電産に次期社長含みで移籍。トロイカ体制が崩れた日産は、内田社長とグプタCOOによる2人体制で経営していくはずだった。しかし、実態はグプタ氏が経営の主導権を握り、不振にあえいでいた日産の経営立て直しを進めてきた。内田社長は社内でも影が薄く「お飾り的な存在」と揶揄する社員も少なくない。そしてグプタ氏は社外取締役の一部と結託して、自身を内田氏と並ぶ共同CEOに昇格させることを画策。内田社長の手でこれは阻止されたが、両者の関係に火種を残すことになった。

ルノーとの資本関係の見直しで表面化した確執

 決裂が決定的になったのが、ルノーとの資本関係の見直しだ。ルノーは電気自動車(EV)部門を分社化する計画を打ち出し、両社のEVに関する知的財産権を利用しやすくするため、EV専門会社「アンペア」に日産も出資することを要請した。日産は出資や知的財産権の利用を認める前提条件として、ルノーが日産に43%出資して支配しているのに対して、日産のルノーへの出資比率が15%でしかも議決権がないという不平等な資本関係の見直しをルノーに要求した。

 当初、日産とルノーの出資比率を互いに15%で同等にする点などで合意し交渉は順調に進み、昨年11月中旬には、両社が基本合意する予定だった。ところがグプタ氏などの一部の取締役が資本の見直しに反対、交渉が進まなくなった。ルノーが日産への出資比率を引き下げて関与が薄れることで後ろ盾を失うことを、グプタ氏が恐れたとの見方もある。最終的に日産の取締役会は全会一致に至らないまま、ルノーとの資本関係見直しや、アンペアに最大15%出資することを決議。ルノーと基本合意したのは23年2月になった。