本記事は2015年に掲載された記事の再掲です。

【ヘルドクター・クラレの毒薬の手帳 第1回、青酸カリ】 

 突然ですが、始まりました本連載。

 最近真面目な仕事をしすぎた反動で、「たまには毒々しい話をしたいよ!!」という筆者の勝手な話から決まったのですが、毒々しい話をしようと思ったら、毒の話をすることになっていた…というポルナレフもびっくりな展開でスタートすることになりましたっ。

 Anyway! 毒物に関しては生理学を一通りやった上で、アレな実験をだいたいやり、いろんな毒物も実際に味見をし、そして全国で有害図書指定を受けつつも、シリーズを通し15万部を越えた文部省不認可教科書こと、『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス)まで上梓した身としては、毒の話…といっても、ググってすぐに出てくるようなことをまとめるようなことはしませんので、多少ご期待してくれてもいいのよ…!

 というわけで、さっそくいってみましょう! 第1回目のお題は「青酸カリ」。ミステリーには定番のこの毒ですが、その実体はどんなものなのでしょう? ついでに味なんかについても触れてみようと思います。

■青酸カリの歴史

 まずは、青酸カリというのは俗称で、化学の世界では「シアン化カリウム」(KCN)と表記されます。

 青酸カリという字面から、ドラマなどでは青っぽい粉で表現されることがありますが、実際は面白みのない白い粉で、舐めるとメタリックな苦扁桃フレーバーが…といっても伝わりにくいでしょう。端的にいえばアルミホイルと甘味のない杏仁豆腐を口にいれたような味、とすれば想像しやすいでしょうか。

 この青酸という言葉は、もともと顔料として15世紀あたりから使われていたプルシアンブルー(のちにいくつかの青色顔料に分類される)が由来となります。

 ゆえに、印刷のCMYKの青はシアンと呼ばれるわけです。

 これは組成式を見ると FeK[Fe(CN)6] や Fe(NH4)[Fe(CN)6] といったモノです。一昔前は腐らせた牛の血を錆びた鉄鍋で灰と一緒に混ぜ、ときおり鍋を叩きながら煮詰めるという方法で作られていました。生成に必要な鉄分は錆びた鉄鍋を叩くことで、酸化鉄が中に入り込み反応していったという、こんな方法どうやって思いついたのかは時代のみが知るといったところでしょうか。そして、水酸化ナトリウムなどの強塩基とプルシアンブルーを混合すると、水酸化鉄(III)とシアン化合物イオンが得られ、そこから蒸留などを経て、シアン酸こと青酸が作られるのです。

 ちなみにプルシアンブルーは、セシウムイオンを吸着する不思議な性質を持っており、福島第一原子力発電所が爆発して、放射性セシウムが日本中にばらまかれた時に話題になりました。

 話は戻って、この化合物プルシアンブルーのCNという部分こそ、青酸カリのCN部分なわけです。青酸の状態では反応性が高すぎて不安定なため、カリウム塩やナトリウム塩にしたものが、青酸カリウム(シアン化カリウム)、青酸ソーダ(シアン化ナトリウム)となります。