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今週は下院議員がワシントンに戻ってくる。審議スケジュールはスカリス下院院内総務のホームページに掲載されており、約800億ドル規模の税制優遇法案(Tax Relief for American Families and Workers Act of 2024)が今週審議される可能性リストに入った※1。

約800億ドル規模の税制優遇案については先週の記事を参照ください。2024年度予算については、目立った動きはなかったので割愛します。

上院の国境安全法案交渉は続くものの、ジョンソン下院議長は “dead on arrival”と切り捨てる

上院ではウクライナ・イスラエル支援を含めた国境安全法案の交渉が続いている。何度も破断しかけたが、なんとか継続している。交渉の中心人物である共和党 James Lankford議員(OK州選出)はOK州共和党から を非難決議まで出てしまった。トランプ前大統領がこの交渉自体を非難しており否決するよう呼び掛けているのも交渉が進まない一つの要因になってきた※2。

しかしながら、ジョンソン下院議長は上院が交渉中の法案は “dead on arrival”になると切り捨てた。しかも共和党下院議員向けの書簡で宣言した。

この “dead on arrival” は議会では頻出単語であり、上下院どちらかで可決しても、自分たちの院では採決さえしないことを意味する。下院議長が強力なのは、どの法案を採決するかを決定できるからだ。なので、下院議長が葬りたい法案は採決しなければいいだけなのだ。というわけで、ジョンソン下院議長は裁決さえしないつもりなのだろう。加えて、ジョンソン下院議長はマヨルカス国土安全保障長官の弾劾を下院で進めることも約束した。

これほどまでに上院共和党指導部(もっというとマコネル上院院内総務)に歩み寄らない共和党下院議長は久々ではないだろうか。

さらに、ジョンソン下院議長はバイデン大統領の声明文にも反発した。バイデン大統領は上院で進めている超党派の国境安全法案に賛同を示し、国境管理をするためには新たな法案が必要とした※3。

これはジョンソン下院議長が指摘通りであって、不法移民の流入制限は行政権限でたいてい可能だ。実際、トランプ前大統領は新たな立法なしに、不法移民の流入を大幅に制限した。

ジョンソン下院議長が指摘す通り、キャッチ・アンド・リリース廃止(国境で捕まっても、その場で難民申請することによって米国側で釈放が可能となる制度) 、審査待ち不法移民のメキシコ送還の復活、国境の壁建設など行政権限で対応可能だ。

ジョンソン下院議長はつなぎ予算を「約束はしていない」と過去の発言をひっくり返したくらいなので、 “dead on arrival” とまで発言したのを容易に反転させるかもしれないが今のところは共和党議員に書簡送ったくらいだからその通りにするだろう。

さて、この上院国境法案が進まないと、パッケージ内に含まれるウクライナ支援・イスラエル支援・インド太平洋支援などが可決しないことになる。そもそもウクライナやイスラエル支援と国境法案がなぜ一緒になっているかに疑問は残るが、これをパッケージ化しようと上院が決めたのだから致し方ない。

TX州と連邦政府の対立について整理

TX州と連邦政府についていろいろな噂が飛び交わっているが、国境問題は2024年総選挙の争点の一つなので一度整理しておくことにする。ざっくりと時系列でみるとわかりやすい。

2021年~ 事のはじまりはバイデン大統領の国境政策に不満を示した TX州は「Operation Lone Star」と呼ばれる州独自の不法移民対策を開始。この Operation Lone Star作戦により、有刺鉄線が設置されることになる。

2023年5月 バイデン政権は国境管理措置であるタイトル42を失効させる。

2023年7月 米司法省は連邦政府の許可なくTX州はリオ・グランデ川に構造物(ブイをつなぎ合わせたフローティングバリア)を建設したためRivers and Harbors Actに違反しているとして TX州とアボット州知事に対して提訴した。司法省はTX州に対し、州の費用負担で障害物を撤去するよう求めている※4。

→2023年12月に連邦地裁はTX州に撤去を命じたが、現在は第5巡回区控訴裁判所で審理中。判決がでるまで、フローティングバリアは設置されたまま。

2023年10月 TX州は不法移民の流入を制限する目的で戦略的に配置された有刺鉄線をバイデン政権は許可なく幾度となく切断して、TX州の資産(有刺鉄線)に損害を与えたとして提訴※5。

2023年10月 連邦地裁は、バイデン政権による有刺鉄線の切断や撤去を禁止するよう求めたTX州側の要求を却下

→TX州は控訴

2023年12月19日 第5巡回区連邦控訴裁判所の判決がでる。医療上の緊急事態を除き、バイデン政権が有刺鉄線の切断や移動させることを一時的に禁止する命令を出す※6。

→バイデン政権は上告

2024年1月22日 最高裁は第5巡回区連邦控訴裁判所の命令を無効として、バイデン政権下の連邦国境警備職員に対し、TX州が国境に設置した有刺鉄線の撤去を認める判断を下す。 米最高裁判所は5対4で連邦政府の主張を支持した。