株価指数といえば日経平均や米ダウ工業株などを想い浮かべるが、2007年創業のドイツの指数提供会社「Solactive社」は個性的である。同社は美容や糖尿病などの関連銘柄に連動する指数を作っているのだ。世界で250の顧客を抱え、ETF(上場投資信託)200銘柄がリンクするユニークな指数の中から、いくつか紹介しよう。
日本株多数組み入れ「ビューティー指数」
「ビューティー指数」は世界的な化粧品関連銘柄に連動するものだ。仏ロレアルや米エスティローダーなども含むが、実は日本株への投資比率が最も高い。資生堂を筆頭に、花王やライオンをいずれも1割前後のウエイトで保有し、パフォーマンス(投資成績)は抜群。この1年間では、ダウ工業株や日経平均が大きく下落しているのに対し、ビューティー指数は2%上昇している。
長期で見てもリーマン・ショック後の安値から直近までに3.5倍、年率にして約20%の高いパフォーマンスを続けている。ファンド評価の重要な指標のひとつであるシャープ・レシオ、すなわち指数の変動に対する収益率の高さでも比べてみる。N225の平均数値は0.2倍前後なのに対して同指数は07年の設定以来、0.6倍の比較的安定したリターンを稼いでいるのだ。
過去に高パフォーマンス「糖尿病指数」「気候変動指数」
一方、この1年は10%低下と振るわないものの、昨年半ばまでの4年間でほぼ6倍に高騰したのが「糖尿病指数」だ。大手医薬品メーカーの米イーライ・リリーや血糖値の遠隔モニター・システムを提供する米医療機器メーカーのデクスコム、デンマークの糖尿病治療薬の老舗ノボ・ノルディスクがいずれも25%前後の大きなウエイトで同指数の大半を構成する。
「気候変動指数」は農業ビジネスやバイオ燃料、廃棄物処理、太陽光エネルギーなどエコ・フレンドリーな銘柄に投資する指数だ。世界の大手企業30社を対象に時価総額に応じて投資ウエイトを1.5%から5%の範囲で定めている。保有株の筆頭は、遺伝子組み換え種子最大手の米モンサント。同社はつい最近、世界2位の農薬メーカー独バイエルから買収交渉を持ちかけられている。
他に米廃棄物処理大手ウエイスト・マネジメントや穀物メジャーの米アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、英国の電力大手SSEなどがまんべんなく含まれている。ただ、パフォーマンスは昨年9月までの約1年半で2倍近くになったが、それ以降は17%下落。昨年12月の国連気候変動会議(COP21)で「パリ協定」が採択されたが指数は反応薄だったようだ。
日本の「自社株買い」「輸出関連」指数も
日本関連では、「自社株買い企業」や「金融を除く輸出関連企業」に連動するものがあり、縮む日本経済の影響を受け易い業界を避ける狙いが感じられる。
「自社株買い」は企業の公式発表から2ヶ月以内の銘柄を組み入れるもの。リーマン・ショック直後の08年11月の組成以来、昨年前半までほぼ一貫して上昇、3.5倍になったが、直近ではそこから3割近く下落している。主要構成銘柄はソフトバンクの約10%を筆頭に、日産やいすゞ、そして京阪電鉄などを傘下に持つ京阪ホールディングスなどだ。
もう一方の「輸出関連」は、安倍政権が誕生した12年末以降の円安の過程で、昨年後半にかけて2倍以上になった。だが、円高基調に転じた昨年末以降は2割以上下がっている。その名の通り、輸出型企業を組み込むが、バイオ薬品開発企業で東証マザーズ上場のそーせいグループ、半導体テスターのアドバンテスト、モーターの日本電産など結構ニッチな銘柄が多い。
新技術をピンポイントで狙う指数も
Solactive社には高成長が見込まれる、ハイテク技術をピンポイントで狙った指数もある。ハイテクの中でも、とくに新技術の分野では企業の浮沈が目まぐるしく、個別銘柄への投資はリスクが高い。同社の指数で複数企業に投資できれば、リスク分散が図れるから魅力的だ。
「3Dプリンティング」にはイスラエルのストラタシスや米プロトラブズが含まれ、「ビッグ・データ」はスプランクやテラデータなど全て米国企業で構成される。「フィンテック20」は世界最大手の金融テクノロジー企業20社に投資しているものだ。米SEIインベストメンツや独ワイヤカードなど、見慣れない銘柄がずらりと並んでいる。いずれの指数も急騰の後、急落するなどボラティリティーが高く、長期のパフォーマンスは必ずしも良いとは言えない。そのため、投資をするならポートフォリオのスパイスと考えるのがいいだろう。
日本のETFでは、日銀のツルの一声で大和や野村が組成した「賃上げETF」が東証に上場、日興アセットなども追随するようだ。だが、銘柄選択はありきたりで横並びという印象は否めない。トヨタ、ソフトバンク、セブン&アイなど似通ったものばかりで、組成会社の個性が感じられないのだ。
インバウンド需要関連やドローン関連、「アベノミクス期待関連」あるいはその逆の「アンチ・アベノミクス関連」。もしこんなエッジが効いて尖ったETFがあれば、日本の株式市場の活性化につながる可能性は大いにある。そこはSolactive社に期待したいところだ。
文・上杉光(シニアアナリスト)/ZUU online
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